ラグビーリパブリック

船に飛び乗る勇気を 千葉商科大・創部50周年式典

2019.07.02
2014年時は部員4人。大学合同チームの時代も経て、今は40人の規模に(撮影:CUC)

2014年時は部員4人。大学合同チームの時代も経て、今は40人の規模に(撮影:CUC)

 関東大学ラグビー連盟のHPで千葉商科大学の前年度の順位を見ると、リーグ戦6部最下位、不戦敗の文字が並んでいた。2014年の話だ。

 その春に鷲谷浩輔氏(秋田高—筑波大)が赴任した当初、ラグビー部員は4人。当時の部長である江幡健士氏(水戸一高—東京教育大)に言われたのは「この部を立て直してくれ」ではなく「鷲谷のキャリアを考えれば、うちで指導せず母校でコーチを続けたほうがいい」だった。鷲谷氏も「そうさせてもらいます」と即答した。

 しかし練習が始まる午後5時にグラウンドを覗きに行ってみると、4人の部員が集まっていた。

「たった4人が相手なら片手間にやってもいいだろう」と安易な気持ちで彼らに指導する日々が続いたが、ある日衝撃的な出来事が起きた。

 フィットネストレーニングを行なっていると、一人の選手が追い込みすぎて倒れ込んだのだ。15人揃わず、いつ試合ができるかも分からない状況で、決して言い訳することなく、目の前のラグビーに真剣に取り組んでいる姿を見た鷲谷監督は、「彼らのために全てをかける」ことを決意したという。

 オフの日に高校へ出向き、高校生をスカウトする日々が始まったが、部員が少ないチームで申し訳ありませんと、いつも頭を下げてばかりいた。

 北は北海道から南は九州まで全国各地でのスカウトを2年間続けたが、受験してくれる高校生は一人も現れなかった。そんなある時、大学時代の友人の言葉が鷲谷監督を変えた。

「引け目を感じる必要はない。選手も鷲谷も一生懸命やってるんだろ? もっとお前の志を語れよ」

 高校生には、チームにかける情熱を堂々と語るようになった。

「この船に乗りたい者は手を挙げてくれ」というスタンスに変えたのである。すると、千葉商科大を選択肢に加えてくれる高校生は次第に増えていき、4年目には11人が入部。ついに念願の15人単独チームとなった。
 
その年に入替戦で勝利、5部昇格。その翌年も10人が入部し、4部昇格を達成。そして今年は18人が入部し40人を越える所帯となった。さらに、今年から元NECの森田茂希氏もコーチを務めるなど、チームの揚げた帆には今、強い追い風が吹いている。

6月9日には創立50周年式典を行った(撮影:CUC)

 6月9日には都内で千葉商科大学ラグビー部創部50周年式典が行われ、OB、関係者合わせ約100人が集結した。

 もしあの時、4人の部員がラグビーを投げ出していたら。

 この日の式典は行われていない。
 
 直井OB会長が「強くなってから『OBです』と名乗り出るのは認めない。OBであれば今すぐこの船に乗らなければならない」と声を荒げているように、OB会も本気だ。月に一度OB役員会を大学で開催し、現役部員をサポートするために知恵を出し合っている。今では経済的支援から就職支援まで、さまざまな取り組みでチームを支えている。

部員4名から漕ぎ出した小さな船は、いま多くの人々に影響を与えている。今年の目的地はもちろん「3部昇格」。そして最終目的地は「日本一」だ。笑われてもいい。願わなければ近づかない。勇気ある船員たちの航海はまだ始まったばかりだ。
(編集部/協力:千葉商科大)

新年度から就任した森田茂希コーチ(撮影:CUC)