4月25日、当日朝のメディアリリースで集められた報道陣は、日本協会のブリーフィングで、新しいトップリーグ(以下TL)の構想について発表を受けた。
記者たちの前に立ったのは河野一郎・日本協会理事と、太田治・日本協会TL部門長(ともに当時)。
発表の概要は次のような内容だった。
ブリーフィングの要旨(4月25日)
4月25日・日本協会メディアブリーフィングより編集部まとめ
1 2021年度からの新TLは、8チーム×3の3リーグ制に
2 開催時期は1〜5月
3 国際競争力を高めるため、海外チームとの対戦機会を設ける
この発表は、立ち話で発表者二人を囲む形で発信されたこともあり、細かい経緯などについて説明が十分とは言えなかった。そのぶん、特に「新TLは1〜5月」「8チームリーグ制」という時期とチーム数をめぐって、メディアや関係者の疑問が渦巻いた。
6月1日には、太田治氏がTLチェアマンに就任したことが発表された(就任は5月15日)。新たな舵取り役として、TLについてどのような構想を持っているのか。6月17日、太田治氏に話を聞いた(取材日は、ネーションズ・チャンピオンズシップ廃案の報道前。上記ブリーフィングを含め、7月から12月は代表強化と休養にあてる前提で話している)
太田・新チェアマンのインタビューの要旨(6月17日)
6月17日・日本協会内で取材。*『ネーションズ・チャンピオンシップ』構想廃案の発表前
1 新TLのシステムは8月末に発表
2 新TLは2022年1月にスタートを検討
3 リーグが重視するのは集客力UP(地域性・事業性・国際性で取り組む)
4 TLは、将来は年間9か月の開催期間を目指す
——国際リーグの環境が安定していない中ですが、TLは何を目指すのか、大方針から聞かせてください。
太田「直近の動きとしては今年8月末に、メディアの皆さんに新しいTLの方針について発表をする予定です。今、私たちが進めている取り組みは、2014年にTLのチームの皆さんと外部見識者とプロジェクトを立ち上げて、将来のTLについてまとめ上げたジャパンラグビートップリーグ・ネクスト答申書(2017年)に沿って動いているものです。…
「…内容的には少子高齢化や世界ラグビーの変化、スポーツビジネスの変化、トップリーグ企業の変化等、日本ラグビーを取り巻く環境が厳しい中、日本ラグビー及びTLをどのように発展させればよいのかを纏めたものです。そのポイントは、集客の向上です。TLの過去16年間の集客の実績は、1試合当り4000人前後で推移しています。2018年時点では3887人でした。なんとかこの数字をUPさせたいと考えています。10年後には満員のスタジアムでトップリーグの試合開催できたらと強く願っています。」
——その次の動きとして、4月25日の発表内容があるのですね。
太田「8チーム×3というフォーマットも、開催時期も、確定したものは一つもありません。ただ、いまの状況下(日本代表の強化の方向性)の考え方でいくと、このようなフォーマットも想定できるよ…ということを示して、チームの皆さんと議論を深めたいと思い、TLの代表者会議で提案をしました。それが、言葉先行で取り上げられた感があります」
——とは言え、8月末には新リーグについての発表が控えていますね。4月25日以降は、チーム側とは、どんなやり取りを。
太田「全24チームから、新しいリーグに対する参加の意思表示を待っているところです。リーグ側が求める参加要件との絡みもあり、足並みはそろっていませんが、参加チームは8月上旬までに回答をもらう予定です。そこを最終ラインに据えて、全体への説明は5月にも行いましたし、チームに対し個別訪問して意見を伺っています」
TL参加チームに求める3点
——参加要件にはどんなものがありますか。その基準を満たしていないと、下部を含めた新しいTLには参加できないのですよね。概要だけでも。
太田「具体的にはまだ決まっておりません。事業性と地域性、国際競争力に関わる事柄です。事業性でいうと、リーグとチームが共にファン目線を追求する事。地域性は、ホストエリア、ホストスタジアム中心に自治体との連携を図る。国際競争性は、トップ同士の均衡した大会形式を図り、国際大会の創設という方向性をチームに伝えました。例えばホームエリアでのスタジアムの使用。次にチームの中でしっかりとチケットセールス機能をチームにもってもらいたいし、『ホームエリア』での普及、アカデミー活動をチームが積極的に展開することも将来的に考えてもらいたいです」
——この要件を、企業スポーツの中で持ってほしいということですね。4月の会見では、「企業スポーツの堅持」にも触れていた。チームのプロ化は、しないと。
太田「チーム内の強化の実態は、もうほとんどラグビーに専念できる環境にある。それを、昔のように戻せと言っているわけではありません。企業が、自社の制度の中でプロの選手やスタッフを抱えることを止めているのでもありません」
——プロ化には3つ層があると思います。TLのリーグ運営のプロ化、チーム経営のプロ化、選手とスタッフの個人のプロ化。チェアマンが今触れたのは、個人のプロ化の部分ですね。さらに今後は、TLも法人化して日本協会から独立し(2018年2月に法人格取得)、運営もプロ化していく。ただ、各チームの経営はあくまで独立はせず、企業の中の存在に止まる。(編集部注:TLとしては、『チーム強化部門は現状維持、チーム運営(事業)は企業の制度の中で機能』の方針を各チームへ提示済とのこと)
太田「TLチームは今、これだけのプロ人材を抱え、さらに海外からは魅力的な選手たちが次々と加入してくる場になっています。選手たちの雇用を含めて、チーム強化の実態は、日本独自の特徴的な仕組みだと思います。それを一般的なプロ化に照らして壊す必要はまったくないと思います」
——リーグ全体の運営はプロ。各チームの経営は企業に属する。ここのアンバランスが気がかりです。例えば新TLが10チームになったとします。今のTLチームは、6社が事実上の2部落ちになる。2部になっても現状の投資を続けてくれる会社がどれだけあるでしょうか。チーム関係者にどれだけ熱意と創意があっても、決めるのは会社。結果的に、強化をするチームとしないチームの力の差は大きく開くのではないでしょうか。
2部扱いになるけれど、ラグビーの強化は今まで通りに続けてもらう、各社をラグビーに引き止めるには、相当な見返りが必要です。何か手はありそうですか。
太田「現段階では、チーム数も決まっていない中で、仮の話はできません。参加チームが決定した段階で、全チームと協議し詳細を決めて行きたいと思います」
満員のスタジアムでリーグの価値向上を
——例えば、カップ戦で日本一を狙えることなどを2部チームへアピールするのは難しいと感じます。サッカーと違って、ラグビーは番狂わせが起きにくい。カップ戦の意義は限られているのでは。まして、この構想では、1部リーグには世界からの選手が集まってしのぎを削ることになります。入れ替え戦の枠を大きくとるなど、1部と2部の流動性を高める策も想定されますが、カップ戦でも入れ替え戦でも、1部側の圧勝が続くのではないでしょうか。2部であってもTLにいたい——各企業がそう思えるだけの魅力を備えるのは本当に難題です。
太田「参加チーム数が決定していない中で、一部・二部などのフォーマットに関する話は現段階では、できません。最終的には徹底した集客施策によって「満員のスタジアム」を実現することで、さまざまな価値を向上させ、収益増加、投資促進を導き出したいと思います。それがファン(競技者増)を生み出し、価値が向上するスパイラルとなる絵を描いています。メディアのみなさんも含めて、いろんな意見やアイデアがあればご教示頂きたい」
——確かに、万能でデメリットのない制度はないと思います。なので、今回のTLの方針は「競争力」と「集客」に特化するという決断だ、と感じました。デメリットはあるが、何かを決めなければ前に進めない。ただ、今回の決断は、参加企業だけではなく、大学や高校でラグビーをする選手も減らすことにならないでしょうか。
太田「TLは、日本代表強化を支える基盤です。TLも自身の価値を上げることを目指して活動しなければなりません。一方で、日本協会とは、代表強化や普及・育成といった観点で連携をしていかなくてはなりません。
開催期間は20週ゆえ…
——1部リーグは世界的な外国人選手と、ごく限られた日本育ちのトップ選手たち。大学で踏ん張ってラグビーを続けても、選手として採用される望みはかなり薄い。これは日本の場合、セカンドキャリアとも直結します。企業ラグビーの二極化は、すぐに大学、高校にも広がってしまう。そこが、どうしても心配になります。チェアマンとしては、今よりも大幅に少ないチーム数でしか、将来のTLは開催できないとお考えですか。
太田「現ネーションズチャンピオンシップ構想に日本代表が参加する事を想定した場合(取材は6月17日)、必然的に7月〜11月までは日本代表の活動期間となる為、TLが活動できる期間は12月〜6月となります。これに選手のウェルフェアを考えると1月〜5月の中で開催する事が良いのではないかという案を提案した。そうしたときにこの期間でできるのは20週程度であり、その範囲内で収まるチーム数やフォーマットを検討する必要があると思います」
——確かに今は不確定要素が多すぎますね。TLが何に軸を置いているのかは分かりました。
太田「将来的には、年間に9か月の試合開催を目指しています。現状案の5か月開催はまだフェーズ1の段階です。今後はカップ戦の意味づけなども試行錯誤し、環境変化に適応しながらリーグをブラッシュアップしていきたいと考えています」
集客に伸び悩むTLの改革にあたっては、ワールドカップ後の大荒れの環境変化の中で早急に手を打ちながらも、それが「持てるチームと持たざるチーム」の溝をさらに広げる結果にならないことを願う。
全国各県の高校大会ではすでに、決勝でさえ大差のスコアが頻発し、県2位のクラブの正規部員が15人に届かないケースも少なくない。「する人」の減少が、15人のスポーツに与える影響は極めて大きい。
TLが突き進む道を、補完する取り組みが、日本ラグビーの生命線になるのではないか。
(以上 ラグビーマガジン8月号掲載テキストを一部改稿)