ラグビーリパブリック

【ラグリパWest】東海大、関西でつまずく。

2019.06.27

スクラムで苦戦する白ジャージーの東海大。青ジャージーの近畿大には余裕が感じられる



「一緒のマインドでやったのか?」
 普段は紳士的な木村季由(ひでゆき)は怒りをにじませる。その言葉の頭には、具体的なチーム名を加えた。
「帝京」、「明治」
 学生日本一を目指すライバル校である。

 木村が監督として率いる東海大は近大と引き分けた。31−31(前半19−14)。45回目の定期戦は6月23日、東大阪の近大キャンパスであった。

 東海大の先発15人は、前週の慶大戦から2人が変わっただけ。関東春季大会での一戦は29−17と勝利している。

 力上位と見られていたのに、まさかのドロー。関西の梅雨入りはまだ宣言されていなかったが、その内容は湿った。
 後半26分、スクラムからのサイドアタックで山菅一史がインゴールに走り込んだ。31−14。勝利を固めた、と油断が出る。残り15分ほどの間に3連続でトライを奪われた。
 最後のゴールキックが決まっていれば、逆転負けだった。

 苦戦の予兆は前半2分に早くも現れた。
 自信のあるスクラムが押される。自陣10メートル左中間、右側から崩された。右プロップの中野幹が対面の紙森陽太に食い込まれる。近大の15人からは歓声が上がった。
 3分後のセカンド・スクラムはコラプシング。前半の4つの大きな反則の内、2つは組み合いの劣勢を証明するものだった。

「相手からプレッシャーを受け、それを試合中に修正できませんでした」
 ゲームキャプテンの中野の視線はさまよう。3番は自分の外側に相手がいる分、その押しをもろに受ける。スクラムの敗北は決して1人のせいではないが、最前線に立った者、そして4年生として責任を背負い込んだ。

 ここのところ、関西の大学はスクラム強化に時間を費やす。昨年度の大学選手権で準優勝した天理大や京産大と戦うためには、そこの鍛え上げが不可欠だからだ。起点が勝てば、気持ちでも波に乗れる側面もある。

 近大は昨年の関西リーグこそ2勝5敗の6位と低迷したが、伝統的に攻めに転じれば強い。「イケイケラグビー」と呼ばれた過去がある。大学そのものの人気も高い。入試では6年連続の志願者数全国1位を記録した。今年はU20日本代表に4人を送り込む。紙森、プロップ・辻??村翔平、フランカーの山本秀、センター・福山竜斗と才能もそろう。

「向こうには勢いがあって、こっちにはありませんでした」
 主将の眞野泰地は言葉少な。次世代の日本代表であるジュニア・ジャパンの肩書を持つスタンドオフは、教育実習やケガなどのために不出場。試合前に行われたB戦(二軍戦)のタッチジャッジをかって出ていた。

 昨年、東海大は関東リーグ戦を制した。続く大学選手権では8強戦で明大に15−18と3点差惜敗。終了間際のペナルティーゴールで勝負は決まる。その明大は優勝。決勝戦の天理大戦は22−17。得失点差だけに目をやれば、王者を一番苦しめたチームになる。




 その創部は1963年(昭和38)。大学選手権の決勝には3回進出している。すべて帝京大の9連覇と重なり、退けられた(46回=13−14、52回=17−27、53回=26−33)。
 木村の口から、明治、帝京という名が出たのはそのためだ。
 まだ、大学の覇権は奪取できていない。

 今春、慶大戦も含め、これまではおおむねよかった。6戦4勝1敗1分。明大には24−40で敗れたものの、帝京大には31−26、早大にも40−36で競り勝っている。

 トンガ出身のテビタ・タタフとアタアタ・モエアキオラは卒業した。ナンバーエイトはサントリーに、センターはチーフスと神戸製鋼に去った。ともに、日本代表キャップを3ずつ持っている。
「大駒は抜けましたが、その分、みんなが危機感を持ってやってくれています」
 試合前まで、木村に憂いはなかった。

 この定期戦は1年ごとに平塚と東大阪を行き来する。
 西下する場合はバスで前日移動。選手たちは関西出身者の家に分宿する。木村はB戦も含め、メンバーにはいわゆる「ご当地選手」を優先的に選ぶ。1日ではあるが、家族とのだんらんを楽しめるようにとの思いがある。

「大前提として大人として扱っている。自分のことをちゃんとコントロールできないのか?」
 体育学部の教授でもある木村は教育者らしく、切り替えの重要性を説いた。
 配慮が裏目に出たのなら、これからはやり方を変えていかねばならない。ただ、管理が行き過ぎると、判断に直結する自主性が育たない。それも理解している。

 学生を教え、導くのは難しい。

 緊急ミーティングは、試合直後には異例の長さ、20分ほど続いた。
「チャレンジャーは常にチャレンジするんだよ。だから、チャレンジャーなんだよ。隙を作ったら勝てないんだよ。すべてが甘い。何か勘違いしていないか」

 試合後、両校の健闘を称え、親睦を深めるアフター・マッチ・ファンクションがあった。学内の食堂に木村の姿はなかった。
 向かった先は吹田(すいた)市の病院。6月16日、襲撃を受け、入院する巡査・古瀬鈴之佑(こせ・すずのすけ)を見舞うためだった。
 古瀬は木村の教え子だった。

引き分けた近大との定期戦の後、ミーティングで話をする眞野泰地主将(写真中央)


 ■先発メンバー■
【東海大】
1黒田宗平(獨協埼玉③)
2田中煕(伏見工②)
3中野幹C(東海大仰星④)
4中村匡汰(東海大相模④)
5小池隆成(東京②)
6ノア・トビオ(札幌山の手②)
7今井大貴(東海大仰星③)
8吉田大亮(東海大仰星③)
9山菅一史(東京④)
10塚野武(京都成章④)
11千葉真之亮(仙台育英②)
12杉浦拓実(東京③)
13依田朋己(深谷④)
14林隆広(石見智翠館②)
15酒井亮治(東海大相模②)

【近大】
1紙森陽太(大阪桐蔭②)
2山口翼(大阪桐蔭③)
3松岡将大(近大附④)
4坂上知志(愛媛・三島③)
5積博志(大阪桐蔭③)
6宮本学武(近大附②)
7山本秀(京都成章②)
8酒井秀章C(春日丘④)
9北砂渓翔(近大附③)
10河井優(日本航空石川②)
11今住拳矢郎(東福岡③)
12福山竜斗(天理②)
13中辻眞大(報徳学園③)
14宮宗翔(大阪桐蔭②)
15中洲晴陽(筑紫②)
※両チームの選手名のうしろのCはゲームキャプテン
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