仲のいい兄弟だが、ここ1週間は連絡を取り合わなかった。
「今週は、連絡取らなかったです。結構、頻繁に取っているんですが、今週はなし!」
兄で24歳の忽那健太がこう言えば、弟で22歳の忽那鐘太は笑った。
「試合前はいつも連絡を取り合うのに、おー、今回は連絡が来ないな、って」
兄が弟の連絡を絶ったのは、ふたりが学生時代以来となる直接対決をするからだった。6月22日、埼玉・熊谷ラグビー場では国内トップリーグのカップ戦が始まり、健太は加入3年目のホンダのCTBとして後半30分から投入される。鐘太は栗田工業の新人SOとして先発フル出場した。
健太のファーストプレーは、くしくも鐘太へのタックルだった。その瞬間、鐘太は持っていたボールを落とす。「僕の負けですね」と苦笑した弟は、試合を通じて好キックを放ち続けるも接点周辺での激しさに手を焼いた。3-33で敗れ、再出発を誓う。
「圧力を感じました。ブレイクダウン(接点)に枚数をかけないと(自軍)ボールを出せないこともあって、(数的不利から)いいアタックのセットができなかったりもした。僕はまだ1年目ですが、カップ戦ではトップリーグの圧力を経験しつつ、栗田のラグビーのなかでどこの部分がトップリーグに通用するかを見つけたいです」
3人兄弟の次男、三男というふたりは幼少期から楕円球を追いかけ、愛媛・城西中を経て島根・石見智翠館高へ越境入学。健太は最終学年時に主将を任され、筑波大でも船頭役となった。身長173センチ、体重83キロと小柄ながら、ホンダの万能BKとして定位置奪取を目指す。
「(この日は)もっと出たかったですね。カップ戦優勝、目指しています。チームとしてニュージーランドに遠征に行ったりと、会社にも期待してもらっているので。一試合、一試合、いいメンバー選考をしている感じです」
一方、身長178センチ、体重87キロの鐘太は昨季、明大のSOとして大学選手権決勝に先発。クラブとしては22季ぶりの学生王者に輝いた。今春からは下部トップチャレンジリーグの栗田工業に入社。参加枠が「16」から「24」に広がった今度のカップ戦(後にトヨタ自動車が辞退し「23」に)で、腕試しを図る。
昼間に練習できる他部と異なり、8時45分からの通常業務を経て夜にトレーニングを重ねる。夕食は22時ごろで寝るのは深夜0時ごろ。タフな条件下で「正直、キツい」としながら、「言い訳はできない」と強調する。いまのコンペティションで「栗田のラグビーのなかでどこの部分がトップリーグに通用するか」を抽出し、磨き上げたい。
「もともとトップリーグのチームを目指していたのですが、どこもSOには外国人を獲るということで(自身への)オファーがあまりなく。トップチャレンジリーグに目を向けたら、栗田工業さんからお話をもらいました。1年でも早くトップリーグに上がりたい。兄には勝ちたいですね。日中の練習は叶わないと思うので、そのなかでもどうやったらトップリーグに上がれるかを考えたいです」
試合後のグラウンド正門付近では、兄弟が他の選手らと写真撮影に興じる。ちょうど目の前を通ったホンダのダニー・リー ヘッドコーチは、兄が「マイブラザー!」と紹介した弟に「ナイススキル」と声をかける。きっとこの日から、ふたりの関係性は元に戻るだろう。