一日に何度もある練習の合間、中島イシレリが記者団に言った。
「楽しい。行ける!」
今年から取り組む、新しいポジションについてだ。
「やるしかない」
6月9日から、日本代表の宮崎合宿へ参加中だ。2月からのラグビーワールドカップトレーニングスコッドキャンプ、ウルフパックなるチームでの強化試合を経て、60名前後の候補選手のうち上位約3分の2に位置付けられた。7月下旬からのパシフィック・ネーションズカップ、さらには9月下旬からのラグビーワールドカップ日本大会を見据える。
実戦形式練習や走り込みを交えたタフなセッションの直後、日本語で応じた。
「(練習は)きついね。でも、いい結果を得るには(必要)。このきついトレーニングをして、いい結果を得たいね」
トンガから来日12年目の29歳で、日本国籍を取得済み。公式記録では身長186センチ、体重120キロと堂々たる体躯を誇る。2008年から流経大、2012年からはNECでLOやNO8として活躍。2015年に加わった神戸製鋼でも、昨季の国内トップリーグ優勝をファイナルゲームの先発NO8として味わった。
しかし今年からは、出身国のリアホナ高で少し経験した程度のPRへ転向。1月にあった神戸製鋼のカップ戦、2月以降の代表関連活動では、スクラムを最前列で組み続けた。
隣のHOと密着し、後方からの力を相手に伝える。PRとしてのスクラムワークには、経験と根気が不可欠とされる。しかし、トップレベルの舞台で転向間もない中島本人は「いける」。代表チームを教える長谷川慎スクラムコーチの唱えるシステムを理解し、「スクラムは組める」と強調する。ここからの課題は、1試合を通して正しくスクラムを組み続けられるかだと話す。
スクラムを優位に進めるには、「セットアップ」と呼ばれる相手と組み合う前の形作りを重視したい。長谷川スクラムコーチから受けているアドバイスについて聞かれ、こう応じた。
「疲れている時にセットアップを速くできるかどうか。セットアップが速い時は勝てる。疲れてセットアップが遅い時は、負けている」
新たな職場に移って約半年。スクラムでの負荷がかかっているためか、NO8の頃より「PRの方が、仕事をしている」と実感する。加えて再確認するのは、自身の後列時代にも視線の先には仲間のPRがいたという事実だ。いま、彼らの大変さに当事者意識を抱ける。
「もしいまからNO8やるようになって、スクラムが落ちたり、負けたりしても、PRに何も言わない」
近くにいた記者団を笑わせつつ、引き続き重責を担ってゆく。