初夏のビッグマッチ。ディフェンディングチャンピオンが、勝って兜の緒を締めた。
6月2日、千葉・中台運動公園陸上競技場。昨季の大学選手権で22年ぶり13度目の日本一になった明大が、一昨季まで同9連覇の帝京大との招待試合を35-17で制した。
しかし、ヘッドコーチから昇格して2年目の田中澄憲監督は、昨季も春、夏、秋と帝京大を下したのを踏まえ「去年は帝京大に勝つことで成長を感じられましたけど、今年は(目指すところが)違うところにある。(問うべきは)内容ですよ。もちろん喜ぶことも大事なので、そこもバランスよくやっていきたいですが」。CTBの本郷泰司主将ら怪我人の多い帝京大へ「まだこんなものじゃない」と敬意を表しながら、自軍の出来はシビアに見る。具体的には、控え組の仕事量に改善の余地があるとした。
呼応するのが、大阪朝鮮高出身の安昌豪。身長177センチ、体重112キロの左PRで、リーダー陣の一角を担う4年生でもある。いったんは、前向きに話す。
「去年のことは全く意識せず、今年のチームとして頑張ろうと(いう思いだった)。テーマだった『1対1で勝つ』を1試合通して意識できた。特にFW戦で優位に立てたのは、自分たちの自信になったと思います」
明大は、序盤から勤勉な動きで局面を制圧する。
攻めてはHOの武井日向主将、LOの箸本龍雅は再々タックラーと激突しながらレッグドライブ。サポート役が帝京大のタックラーをつかみながら、ゲインラインを押し込む。守ってはタックル後の素早い起き上がりで数的優位を保ち、皆が揃って圧をかける。帝京大のミスを誘った。
無形の力がチャンスやスコアにつながったのを受け、安はこう応じる。
「明大の選手にしかわからないような目立たない、細かいところを、練習中から意識してやっています。明大以外の方たちからそう(よく)見られたのならば、僕たちも成長したのだと思います」
背番号1が光ったのは、14-0とリードして迎えた前半21分頃。まずはハーフ線付近中央の防御網から仲間とともに飛び出し、帝京大のランナーを倒す。すぐに起立するや、その相手の持つボールの上方へ身体をねじ込む。帝京大の反則を誘い、敵陣へ深く進んだ。
約9分後には、NO8の坂和樹の突進に並走してトライも決めた。帝京大の反則を誘ったシーンを、控えめな態度で誇った。
「1回仕事をした後の2回目のファイトも意識しています。普段やっていることが試合に出た」
しかし、自らには厳しいミッションも課した。
スクラムは最前列で押しまくっていたものの「マイボールでもコントロールして押し切ってペナルティを取ろうとして、落ちてできなかったところもある。これからはもっと強いチームも出てくると思うので、満足はできないです」。指揮官から「すごくいい動きをしている」と褒められた攻防局面についても、「周りが見えていない」ことが課題だとした。
自分の頑張りを誓うのは大前提として、今後は仲間の頑張りも首尾よく促したいという。
「まだちょっと、試合中のしんどい局面になったら周りが見えていないんです。ちゃんと皆の顔、相手の顔を見ながら試合の流れをつかみ、何を修正すべきかなどを試合中に(頭の中で)整理して伝えられたらと感じます」
この時期参戦中の関東大学春季大会Bグループでは快勝続きも、「圧倒する試合からも、選手同士で課題を出していけている」。東京・明大八幡山グラウンドでの日々もハングリーに過ごしているとし、「練習中に組む円陣でも、ミーティングでも、選手の喋る回数、人数が増えている。主体的にチームに取り組もうとしているのだと感じます」と収穫も明かす。
勝って自信をつけたとしても、勝って大喜びはしない。もういちど頂上決戦で勝つまで、自分たちを律する。