ラグビーリパブリック

ワールドカップへ向け「新たな戦術も」

2019.06.04
日本代表ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(左)と、薫田真広強化委員長(撮影:髙塩 隆)

日本代表ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(左)と、薫田真広強化委員長(撮影:髙塩 隆)

「宮崎での合宿では、これまでのチームの修正と、一から作り直していく部分とがある。新たな戦術も導入していく」

 日本代表ヘッドコーチは緊張した面持ちで、直近の強化内容に触れた。

 W杯まで100日あまりとなった6月3日、日本代表のジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ、15人制日本代表強化委員長・薫田真広氏が都内で会見を行い、パシフィック・ネーションズカップ(=PNC:7月27日~8月10日)へ向けた宮崎合宿(6月9日開始)の日本代表候補42人(FW:26、BK:16)を発表した。

<日本代表 宮崎合宿参加メンバー>は こちら

 新たに選出されたのはスーパーラグビー・チーフスのWTBアタアタ・モエアキオラ(神戸製鋼)、2015年のワールドカップ(W杯)代表のLOトンプソン ルーク(近鉄)ら。一方で、同じく2015年代表のWTB山田章仁(NTTコミュニケーションズ)、CTB立川理道(クボタ)らは選外となった。代表候補合宿に参加していたPR浅原拓真(東芝)、HO庭井祐輔(キヤノン)、LO大戸裕矢(ヤマハ発動機)、FL西川征克(サントリー)、SH内田啓介(パナソニック)、SO山沢拓也(パナソニック)らも入っていない。

 日本代表は今回発表のメンバーで3度の合宿を行い、W杯対戦国の対策などが進む。

 選手選考の発表はあと2回。
 次回はPNC終了後、8月18日からの「網走合宿」参加選手40人。
 そして、直後の8月31日に発表されるメンバーが、W杯最終登録31人となる。

<日本代表 宮崎合宿参加メンバー>は こちら
<日本代表 活動スケジュール(日本ラグビー協会HP)>は こちら

◼️ジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチ会見(抜粋)

*宮崎では、新たな戦術を導入、国別対策も
*バック3には対戦国に対応できる「高さ」を
*代表資格の有無、結果を待たず「まず強化を」
*複数ポジションOKの選手を

*宮崎では、新たな戦術を導入、国別対策も

 メンバー発表前には、これまでと今後の代表強化の流れを説明。直近の宮崎合宿では3回のうち2回を、PNCの準備に特化するとしている。しかし、実際は、宮崎合宿がW杯本番に向けた具体的な準備になることは間違いない。会見中盤でもジェイミーHC自身が触れているように、「代表資格の有無が明らかでない選手も今回のメンバーに含まれていること」は、PNCではなくW杯への準備が大きな比重を占めいていることを物語る。

 私にとって最も大きなフォーカスは、多大なプレッシャーがかかるW杯で、その状況に対応して力を発揮できる選手を育てることにあった。選手たちは順調に成長を遂げている。リーダー陣は我々指導陣にも、わたし自身にも「何を、なぜ」やっているのかの確認に来る機会を自ら作ってきた。結果、とても良い意思統一ができていると感じる。

 現状のスコッド42人を選んだ今後は、PNCの準備に入る(次の選考は8月中旬で40人に)。この過程では、何名かの選手を外さなくてはならず、とても苦しい作業になる。

 今日、発表するスコッドは宮崎で3回の合宿に入る。 宮崎では、修正と、一から作り直す部分と、そして、必要とされる新しい戦術の導入に取り組む。2回目、3回目の宮崎は、純粋にPNCへの準備になる。

 そしてPNC後は40名のメンバーで網走へ。8月末には、31名のスコッド(最終登録メンバー)を発表する。

*バック3には対戦国に対応できる「高さ」を

 42選手の発表後は、選考についての質疑応答。アタアタの選出や、山田、立川らのベテランが外れたこと、サンウルブズの活躍から選考されたトンプソンらについて触れられた。バック3(WTB、FB)については、アイルランドに対応するためと、具体的な選考理由にも触れた。

 選出されたアタアタ、山田、立川だけでなく、今回選ばれなかった選手たち。そこには一貫した理由がある。

 まず私の仕事は勝てるチームを選ぶこと。大会でのさまざまな状況に対応できるバランスを取ること。その上で、バック3にはXファクター(特別な能力)を持った選手たちがそろうことになった。福岡、レメキ、松島…。

 加えて言えるのは、アイルランドが使ってくる空中戦(ハイパント)に対して、それに耐えうる大きい選手が必要という点。

ボニーことウォーレンボスアヤコはサンウルブズでの起用が選出の根拠に。FW、BKをまたいで活躍(撮影:松本かおり)

 ただ、今回外れてしまった選手も完全にチャンスがなくなったわけではない。また次の40名を選ぶ過程がある。例えば山田、立川にも、まだスーパーラグビーの試合などが残されている。

 アタアタについては、チーフスではまずまずのプレーぶりで、チーフスのスタッフにも聞き取りを行い判断した。直接指導した機会はないが、先入観なくプレーを見てポテンシャルの高さを感じている。あとは、彼のパフォーマンス次第。

*代表資格の有無、結果を待たず、「まず強化」

 選出メンバーには、現時点で日本代表資格が確認できていない選手がいる。ハッティング、ムーア、ウォーレンボスアヤコだ。ジェイミーHCはこの点について、「まずは強化を進め、資格の有無の結果を待つ」立場を明らかにした。

 代表資格が明確でない選手については、その資格が明確かどうかよりも、強化のタイミングを重視した。(資格有無の)結果はもうすぐ出ると思うが、それを待っていては強化が進まない。まずは選んで、強化のプロセスに彼らを入れて結果を待つ。宮崎合宿は重要な内容になるので。

 トンプソンは、サンウルブズのケガ人の影響でスーパーラグビーに呼ばれた。そこで力を発揮する姿には私も驚いている。彼の不屈の精神を高く評価しているし、周囲の選手からもリスペクトを受けている。代表に対するプライドがある選手。今のパフォーマンスを続けてくれれば重要な戦力になる。(のちの質問で、ジェイミーHCはトンプソンについて「あくまでも競争中の一選手であり、新しい選手でもある」とも)

トンプソン ルークは2015年に南アを破った日本代表。奥様に背中を押されたことが「復帰」のきっかけ(撮影:松本かおり)

 今回選ばれなかった選手の今後の評価については、まずスーパーラグビー(サンウルブズ)の試合がある。ケープタウンとアルゼンチンでビッグゲームが控えている。これをしっかり見たい。彼らは私がこれまで3年間見てきている選手でもあるので、検証をしたい。

 そして、スーパーラグビーの後は、トップリーグのカップ戦がある。(代表選手に)ケガ人が出ることはあり得る。出場選手たちは、いつ招集されてもいいようにフィットしているはず。いい準備をしている状態だと思う。

*複数ポジションOKの選手を

今後、2度の選考で40人、31人を選んでいく指針を聞かれたジェイミーHCは、複数ポジションをこなす選手の重要性を語った。一方で、フロントローには12人を選んだ理由については反対に、ポジション特有の専門性を考慮したことを明かした。

 通常の遠征やテストマッチでの選考は33名。W杯の最終メンバーは31名。ポジションによっては薄くなってしまうこともある。そこで選手に求められるのは、複数のポジションをカバーできるかということ。松島はFB、WTBの他に前回W杯でのCTB経験がある。トゥポウもバック3ができ、ラボーニ(ウォレンボスアヤコ)は、6番、8番、12番をこなす。山中も多くのポジションでプレーできる貴重な存在だ。

(CTBの選考について聞かれ)立川は、かつては共同キャプテンを務めた貴重なリーダー。コーチからも選手からも認められている。ただ、今回の選考についていえば、単に他の選手がより良いプレーをしている、ということだ。

 フロントローには多くの人数を割いた。中でも木津には感心している。若手ながら激しいプレーを見せ、戦える選手であることを示した。機動力もスキルもある。一方で山下のようなベテランもいる。11月のオールブラックス戦ではいいスクラムを見せた。本番では、スコットランド、アイルランド、サモア、ロシアとも、セットプレーは狙ってくるポイントだ。

 中島は本来はNO8の選手だが、PRに移行できるかというウルフパック(日本代表候補)の試合のパフォーマンスには手応えを感じている。フロントローとして大きく、強く、ボールキャリーでも機能するという特徴がある。

 フロントローは、他のポジションに比しても特にスペシャリストが集まるポジション。替えが効かない仕事なので、多くの選手を呼んでみている状況だ。

 この他、リーチマイケル主将については、股関節のケガが「110%問題ない状態になってからプレーさせる」と、慎重に対応していくとした。また、今回選出された選手たちが、今季サンウルブズでのプレー機会が少なかったことを聞かれると「私には私のプランがある。重要なのは(ウルフパックであれ、サンウルブズであれ)まずプレー時間を確保することだ」。その時点時点での選手の評価と、自らの強化方針の一貫性を強調した。選手の派遣(ウルフパックからサンウルブズへ)については、サンウルブズ独自の強化過程を尊重する意向も述べている。