ラグビーリパブリック

女子ラグビー界のトンプソン ルーク。櫻井綾乃のロック魂。

2019.05.27

2017年のワールドカップでは2トライを記録した。(撮影/松本かおり)



 女子ラグビー界のトンプソン ルークと呼ぶ人もいる。
 ハードワークが信条だ。
 運動量では負けたくない。粘り強さでも。横河武蔵野アルテミスターズの櫻井綾乃のことだ。

 5月26日から始まった女子15人制日本代表の強化合宿。初日はFWだけが集まって練習を開始した。
 午前のクボタ グラウンドでの練習を終え、午後は千葉・柏の麗澤大ラグビー場へ移動。レズリー・マッケンジー ヘッドコーチの指導のもと、セットプレーの強化に力を注いだ。

 午後の練習は、ラインアウトのジャンパーとリフターのコミュニケーションとテクニックに時間が割かれた。そこで櫻井は積極的だった。
 リフターにアドバイスを繰り返す。他より安定したジャンプを何度も。自然にリーダーのように振る舞った。

 2017年の女子ワールドカップ(アイルランド)を経験しているからだ。2021年大会にも出場し、日本の女子ラグビーの力を示したい。その思いが自身を突き動かす。
 強豪国との真剣勝負を知る者として気を引き締める。
 世界は甘くない。

 2年前のワールドカップ。チームはアイルランドを慌てさせ、オーストラリアに食らいついた。
 最終的には5戦して香港戦の1勝しか手にできなかったが、周囲はそのパフォーマンスを称えた。

 しかし、櫻井の考えは違う。
「(強豪国に)勝てなかった。だから、次のワールドカップではもっといい成績を残して、日本の女子がもっとラグビーをやりたい、と思うようにしたい。いまやっている若い選手たちが、もっと輝きたいと思えるような結果を残したいんです」

 身長165センチ。自分より背の高い選手は他にいくらでもいる。
 でもLOで勝負したい。2015年のアジアチャンピオンシップ、香港戦で初キャップを得たのが、その位置だったから愛着がある。
 自身の武器である運動量と粘り強さで勝負する。




 筑波大でプレーしていた父・清さん、兄・崇博さんの影響を受け、3歳のときに高崎ラグビークラブに入った。母・美江さんもラグビーをプレーし、レフリーを務めた。
 高崎女子高時代は学校にラグビー部はなかったが、アカデミー合宿などに招集されて実力を蓄えた。日体大に進学し、競い合える仲間や確かなコーチングと出会い、さらに進化した。

 この春からNTTファシリティーズに入社し、毎日午前は仕事に就いている。
 午後はアスリートとして個人練習に取り組み、所属するアルテミスターズでチーム活動を続ける。
 恵まれた環境への感謝を忘れない。

 ユース時代にはセブンズアカデミーで活動し、大学進学後と現在は太陽生命ウィメンズセブンズシリーズなどもある。
 そのため7人制ラグビーの活動が普段は長いが、本人は15人制に重きを置く。

「7月には(15人制代表の)オーストラリアツアーがあります。以前からセブンズと15人制の切り替えをその場その場でやってきましたが、ツアーが決まってからは、余計に切り替えやすくなりました。セブンズでやっていることを、15人制でも活かします」

 セブンズでも献身的な動きは変わらない。キックオフで体を張り、攻守に動きまくる。クラブの成績は伸びていないが(太陽生命ウィメンズセブンズ東京大会は11位)、獅子奮迅の働きに、ファンの中には「個人的(大会)MVPは櫻井綾乃」とツイートする人もいた。

「トライをたくさん取るわけでもない私のことを見ていてくれて、そんな評価をしてくれるなんて。すごく嬉しいし、モチベーションになります」
 律儀な性格。ツイートの主にも、同様の返事をした。

 愛称はピチ。高校生の頃、海外遠征の直前に買った服がピチピチしすぎたことが理由だが、疲れ知らずで、いつまでたってもピチピチしていることが理由と思っていた人も少なくない。
 テストマッチ2試合を含む豪州ツアーまで、あと1か月半。ワールドカップまで、あと2年。バックロー並みの走力を持つLOとして進化し続ける。

レズリー・マッケンジーHCの精力的な指導が続く。(撮影/松本かおり)