ラグビーリパブリック

実践しづらいことを、する。明大に完敗した法大・井上拓主将の誓い。

2019.05.26

法政大キャプテンの井上拓(撮影:向 風見也)

 法大ラグビー部の井上拓主将は、「激しくできなかった。味方に厳しく言えなかった」と反省した。

 5月26日、東京・明大八幡山グラウンドへ出向いて関東大学春季大会Bグループの4戦目に挑む。相手は明大。昨季の大学選手権王者だ。

 インサイドCTBで先発した身長168センチ、体重83キロの井上は、ロータックルとリロードを徹底。さらに前半終了間際には、トライも奪った。敵陣ゴール前右中間で、パスをもらう瞬間ともらった直後に走路を変えることで防御を破ったのだ。

 もっとも、14-71で屈した。計5戦ある大会の通算戦績を1勝3敗とした結果、想像したのは相手の送るタフな日常だった。

「自分自身はチャレンジしようと思いましたが……。やはり、練習中にしていることが試合に出る。スクラムを組んだ時、明大の選手は『俺たちはもっと走ってきているぞ!』と前向きに声をかけ合っていた。試合を想定した準備が徹底されていると感じました」

 対する明大はこの日、選手層拡大を狙ってもともと控えだった選手を数多く起用。戦前のメンバー発表を受け、井上は「いまの法大の立ち位置がそこにある」「このままじゃ、自分たちはだめだ。土俵に立てていないということなので」と奮起していた。完敗したのを受け、改めて前を向く。

「相手がスタート(不動のレギュラー)じゃないのにこのスコアになった。しんどい時間帯にしんどくなるメンタルの部分は変えないといけない。きょうの悔しさを受け、練習を見直したいです」

 この日ぶつかった明大に加え、一昨季まで大学選手権を9連覇した帝京大など強豪の雰囲気はメディアでも触れている。有名高出身者も少なくない法大を束ねるなか、こうも提言した。

「帝京大は4年生が最後までチームにコミットしていて、明大でも選手が立ち位置に関係なく常にチャレンジしている。それがチームの強さにつながっている。(法大の選手も、何が必要か)頭では理解できていると思うんです。ただ、それを行動に移すのが難しい。自分はリーダーとして、自分たちにとってしんどいことを実践していくしかない」

 競技力を支えるタフな心と貪欲さは、奈良・御所実高で築いた。人の縁を得て入った法大では、初年度から加盟する関東大学リーグ戦1部で7戦中6戦にWTBやFBとして出場。この年は8チーム中7位と低迷も、なんとか心は折らなかったようだ。2年時以降は4位をキープする。

「言い訳をすればいろいろとありましたが、自分のなかで『(うまくいかないことを)環境のせいにするのは嫌い』というのがあります。法大にも目標にできる選手はたくさんいた。どんな環境に置かれても、自分のできることを頑張ろうとしてきたつもりです」

 1924年に創部した法大は、過去3度の日本一を誇る。古豪復活に向け、チームは段階的に部内環境を見直している。

 昨季から敷く複数リーダー制を、継続して導入。今季は井上のもと、副将にはウォーカー アレックス拓也、竹内仁之輔、中村翔という3名の4年生が就き、クラブリーダー、グラウンドリーダーには2~4年の各学年からそれぞれ13、19名が並ぶ(複数の役職を兼務する選手も含まれる)。苑田右二ヘッドコーチ(HC)はこう説明する。

「学生だと上下関係がありますが、トップチームになると年齢は関係なくなる。だから、グラウンドに立ったら学年に関係なくやろう(という意図がある)」

 体力や技術以外の領域にメスを入れた成果は、徐々に表れつつある。昨季のハイライトは、大学選手権出場への可能性が断たれたなかで迎えたリーグ戦最終節だろう(2018年11月25日、東京・秩父宮ラグビー場)。戦前、前主将の川越藏が、試合に出ない同級生と真摯に向き合っていた。後に本人が明かした。

「正直、練習に参加したくないという4年生もいました。そういう選手へは個別に話しました。『練習に出なくてもいいから、練習へのサポートはしてくれ』『最後までチームには携わってくれ』『4年生全員が笑顔で最後を迎えたい』と。命令口調ではチームはまとまらないので」

 結果、大学選手権に出ることとなる流経大に22-21で勝った。苑田HCいわく「リーグ戦チャンピオン。それが達成したら、大学選手権での日本一」を目指す今季のチームでは、この一体感を長く維持したいと井上は言う。

「リーグ戦最後の流経大戦前は、4年生がサポートしているからいい加減なことはできない、という雰囲気になりました。試合に出ていない人が試合に出ている人を支えたり、試合に出ている人が試合に出ていない人の支えがあって試合に出ていると思ったり……。最後まで全員で戦いたいです」

 井上が「皆に厳しく言えなかった」とする今度の明大戦でも、収穫はあったはず。というのも、失点後に円陣を組むフィフティーンは「落ちるな!」と必死に声を掛け合っていた。

 かつて神戸製鋼でも指揮を執っていた苑田HCは、「最初の40分間はなんとか頑張れましたが(前半のスコアは14-26)、だんだんフィジカルのところ、やり切る力のところで(苦しくなった)」と断じた一方で、それぞれの「戦う姿勢」を「変わってきている」と褒めた。

「グラウンドで手を膝につけるな、などと、ずっと口うるさく言ってきました。(選手は次第に)弱い姿を見せたらいけないと感覚的にわかってきた。攻守でプレッシャーをかける。そのなかで美しい変幻自在のアタック、最後まであきらめないディフェンスをテーマにします。いまは4年生が就職活動でほぼいないし、1年生はよほどポジションの薄いところ以外では起用していません。そんななか、いま(春)は何が通用し、通用しないか(を知る)。あとは、セレクション(次戦以降に向けた選手選考)をしていきます」

 新たな船頭役の井上に触れれば、「ああいう選手に皆が引っ張られれば」。井上の人格をクラブの文化そのものにできれば、ミッションクリアへ一気に近づくかもしれない。

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