ラグビーリパブリック

国歌で世界をおもてなし。廣瀬俊朗“キャプテン”率いるプロジェクト「スクラムユニゾン」がキックオフ

2019.05.19
5月17日(金)のキックオフパーティーでは肩を組み合唱。最後列左から田中美里さん、村田匠さん、ゲストの三宅敬さん。中央の列の右は廣瀬俊朗さんに似ている“トシツァルト”(撮影:齋藤龍太郎)

5月17日(金)のキックオフパーティーでは肩を組み合唱。最後列左から田中美里さん、村田匠さん、ゲストの三宅敬さん。中央の列の右は廣瀬俊朗さんに似ている“トシツァルト”(撮影:齋藤龍太郎)

 ラグビーワールドカップ開幕まであと4か月となった5月中旬、その試合会場からほど近い場所で二夜にわたり、強豪4カ国のアンセムが響き渡った。

 元日本代表キャプテンで、現在はラグビーワールドカップ2019アンバサダーを務める廣瀬俊朗さんが発起人となり、世界中からやってくるラグビーファンを国歌またはラグビーアンセムでおもてなしするプロジェクト「スクラムユニゾン(Scrum Unison)」が本格的に始動した。

「今年2月のある朝、目が覚めた時にひらめいた」という廣瀬さんは、プロジェクトについてこのように説明した。

「日本代表では試合前に君が代を歌い、気持ちが昂りました。また、エジンバラのスタジアム(マレーフィールド)で観客が大声でスコットランド代表のアンセム(フラワー・オブ・スコットランド)を合唱する雰囲気が非常に良かった思い出があります。現役を退き、今度は僕が歌を歌って世界のみなさんをおもてなししたいと思いました。日本でワールドカップが開催されるので、今こそそのチャンスだと考えたのです」

 廣瀬さんをバックアップするのは、ラグビーとゆかりの深い2人のシンガーだ。ひとりは日野レッドドルフィンズFL村田毅主将の兄である村田匠さん(カルナバケーション)。もうひとりはJ SPORTSのテーマソングなどでおなじみの田中美里さん。このふたりが歌唱を担当している、今回のワールドカップ出場国の国歌またはラグビーアンセムの動画が、順次YouTubeにアップされているところだ。動画には歌詞(原語とカタカナ)とその和訳がついており、廣瀬さんと瓜二つの指揮者“トシツァルト”がワイプで披露する豆知識も好評だ。また、彼らに加えてコピーライターの吉谷吾郎さんも同プロジェクト始動時から全面的に関わっている。

5月17日(金)のキックオフパーティーで挨拶する、(左から)田中美里さん、村田匠さん、廣瀬俊朗さん、吉谷吾郎さん(撮影:齋藤龍太郎)

 まず5月17日(金)の“第一夜”、ワールドカップの日本代表対スコットランド代表戦や決勝戦などのビッグマッチの舞台である横浜国際総合競技場にほど近い神奈川県横浜市のバー「Byrd’s Grill & Bar」で、スクラムユニゾン初のイベントとなるキックオフパーティーが行われた。

 70人以上の来客でほぼ満員状態のなか、元日本代表でセコムラガッツのヘッドコーチを務めている三宅敬さんをゲストに廣瀬さん、吉谷さんらとのトークコーナーがスタート。後半は村田さん、田中さんによる歌唱指導のもとニュージーランド国歌「ゴッド・ディフェンド・ニュージーランド」とアイルランド代表のラグビーアンセム「アイルランズ・コール」の練習が行われ、全員で肩を組んでの大合唱に発展。最後は村田さん作曲、吉谷さん作詞のオリジナルソング「スクラムユニゾンのうた」で締めくくられた。

5月18日(土)、東京都府中市の練習会後の集合写真。全員でアンセムを習得し、見事に歌い上げた(撮影:齋藤龍太郎)

 翌18日(土)の“第二夜”は東京都府中市に場所を移し、「Scrum Unison×ラグビーのまち府中 #01 キックオフ&第1回練習会」が開催された。スクラムユニゾンと一般社団法人 府中文化村、ラグビーのまち府中サポーターズとの共催で行われ、ワールドカップ開幕戦の日本代表対ロシア代表戦などが行われる東京スタジアムに近い「府中市市民活動センタープラッツ」には約100名が詰めかけた。

 こちらは廣瀬さん、村田さん、田中さんの3名が登壇。府中市をキャンプ地とする2チームにちなみ、イングランド代表のアンセムである「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」とフランス代表のフランス共和国国歌「ラ・マルセイエーズ」の歌唱指導と練習が行われた。こちらも最後は全員が肩を組み、見事に歌い上げた。

 イベント終了後、代表の廣瀬さんは笑顔で取材に応じた。

「みなさんの反応を見ていると満足していただけたと同時に、このプロジェクトの意義を感じていただけたのではないかと思います。プロジェクトの目標は2つあり、まずは開催都市で活動しパブリックビューイングや試合会場で触れ合いの機会を作ること。もうひとつは、直接ワールドカップに携わらない方々が歌うことで携われたという思いになれること。それもまたひとつの価値だと思っています」

 さらにこう加えた。

「あるお客さんが『肩を組もう』と言った瞬間に雰囲気が変わったんです。あれを(スタジアムなどで)体感してほしいですね。日本の方々が他の国の国歌を大合唱するようになれば最高です。それがその国の文化を知る入口になるでしょうし、ひいては『じゃあ日本ってどういう国なんだろう』というところにつながってくれればと思っています」

 と今後の派生に期待を込めた。

 楽曲から歌唱まで音楽回り全般を一手に引き受けている村田さんは、自身の仕事についてこのように語った。

「譜面とピアノ演奏を発注し、歌詞にフリガナと和訳を付けています。レコーディングの現場では美里(田中さん)とふたりで歌い回しを確認し、動画を撮影して最終チェックまでやっています。スクラムユニゾンの活動が広まっていくために、その土台となるコンテンツをいかにいいものに仕上げられるかというのが僕の仕事です。トシさん(廣瀬さん)のもとで僕らはハードワークするだけです」

 女声によるユニゾンと愛嬌のある所作で動画にアクセントを加えている田中さんも、イベントに手応えを感じていた。

「ここまでみなさんが歌えるようになれて、しかもここまで盛り上がるとは思っていませんでした。動画には本当にこだわっていて、自分が一番楽しまないと成り立たないと思っています。全力でエンジョイしているところを、動画の最初の挨拶ひとつとってもお見せする、キャッチーな部分が私の役割だと思っています」

 最後に、裏方として活動を支える吉谷さんはプロジェクトの意義をこのように説明した。

「話すことよりも歌うことの方がずっと友達ができやすいと思ったんです。それって、戦った相手が友達になるラグビーという競技に近いんですよね。だからラグビーと国歌は非常に相性がいいんじゃないかと思ったんです。10カ国語が話せなくても10カ国の歌は歌えますし、覚えることができます。小さい子でも歌なら覚えられるでしょう」

「スクラムユニゾン」の顔となる3人。左から田中美里さん、代表の廣瀬俊朗さん、村田匠さん(撮影:齋藤龍太郎)

 今後も順次、国歌の動画を公開し、各地で活動を行う予定のスクラムユニゾン。歌で世界をもてなし、世界とのつながりを深めていく日本発のこの活動は、ラグビーの枠を超えたレガシーとなる可能性を大いに秘めている。

(文:齋藤龍太郎)

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