東海大ラグビー部2年の丸山凜太朗は、5日前に帰国したばかりだったのに関東大学春季大会Aグループの公式戦に出た。5月12日、本拠地の神奈川・東海大グラウンドで後半途中に登場して40-36と逆転勝利。司令塔のSOに入り、周りをどう引っ張ったか。
「走れ! 足止めんな! …って、言いましたね。取りあえず」
日本を離れていたのは、20歳以下(U20)日本代表としてオーストラリアにいたため。オセアニアラグビーU20チャンピオンシップではU20オーストラリア代表、U20ニュージーランド代表、U20フィジー代表に3戦全敗した。スコアはそれぞれ14-64、12-87、37-59だった。
「足の速さ、身体の強さはそんなに変わらないんですよ。でも、半歩(前に)出た時の速さ、裏に抜けてから出ていく速さが全然、違う。そこでやられた感じです。(U20日本代表も)そこだけ変われば、だいぶ変わると思います」
キックパスを有効活用するなど攻撃を引っ張った丸山は、自国と対戦相手との差をこのように見る。強豪国は、誰かが防御のひずみをえぐるや、残りの14人はすぐに周辺のサポートに入るか、次のフェーズの準備を整えていたような。対するU20日本代表は、その有機的な動きへの対応が遅れたか。
早大戦後、丸山は自軍のプレーと海外で対戦したチームを比べこうも続けた。
「外国人(のチーム)は(その時ボールを持っている選手が)抜けそう…というあれ(感覚)で動いている。皆が、ラグビーを、わかっているという感じです。でもきょうの僕らは、(味方選手が)抜けてもサポートは1人いるかいないかじゃないですか。そこで皆が前に出られたら、いいチームになると思うんですけど」
東福岡高2年時に高校日本一を経験。一時は消防士を志したが、周囲の薦めでいまもラグビーを続けている。身長173センチ、体重83キロと大柄ではないが、数手先を読んだ試合運びが際立つ。
攻撃のリーダーを任されるU20日本代表では、森田恭平アタックコーチの指導に感銘を受ける。森田コーチの所属する神戸製鋼と同種の攻撃理念を落とし込まれていて、「優しくて、わかりやすい。相手が的を絞れないアタックをするので、楽しいんですよ。練習もなんとなくじゃなく、これをするためにこの練習をする…みたいな感じで」とのことだ。
東海大では、眞野泰地主将によく相談する。
目下、脳しんとうからの復帰を目指している眞野主将は、東海大仰星高出身で元U20日本代表主将。競技理解度の高さと対話の際のバランス感覚で、周りの大人たちを感心させる。今季は丸山の思いを採り入れながら、クラブのスタイルを見つめ直したいという。
「丸山はラグビー理解度が高い。そこでは監督、コーチ陣への伝え方というのも大事になるので、(丸山の)言っていることを解釈したうえで、東海大のいままでのスタイルを大切にしつつ、いい部分を採り入れたいです。いままでの東海大はコンタクト重視。そこは根幹として持って、うまさ、システムを(今年のうちに)作り上げて、それが来年までつながっていけばいいなという感じです」
早大戦。東海大は後半22分の時点で28-36と差をつけられていた。持久力を磨いてきた早大が、長短折り混ぜたパスでガス欠気味の東海大を切り崩していたからだ。丸山が投入されたのは公式では「後半25分」だが、実際のプレーは35-36と迫って迎えた27分以降だった。
背番号22のコンダクターは、後半ロスタイムの「後半48分」に逆転するまで「(早大は)FBひとりの方が多かった。動かしながら蹴った方がいい」。自陣から球を揺り動かせば、相手は分厚い防御ラインを作る。この時にできた背後のスペースへキックを蹴り、効率的に陣地を奪おう…。この青写真のもと敵陣に入りながら、最後は自陣からの連続攻撃で得点機をつかむ。
ラストワンプレー。敵陣中盤左の自軍スクラムで早大のペナルティを引き出す。ここでペナルティゴールを決めれば逆転というこの場面。この日の東海大で全てのゴールキックを決めていたFBの杉山祐太は、すでに退いていた。
ゲーム主将で右PRの中野幹は、キッカー役となる丸山に2種類の声をかけたという。
「行けるか? でも、俺たちもモールに自信を持っているよ」
結局、中野は敵陣ゴール前左でのラインアウトを選択。さらに早大の反則を引き出し、スクラムトライを決めた。丸山は、最後の最後のやり取りをこう振り返る。
「別に狙ってもいいですよ、って、決める気満々でしたけど」
これでチームは春季大会で開幕2連勝。19日には昨季の大学選手権を制した明大との招待試合をおこなう(静岡・草薙球技場)。指導者やチームメイトと意見をシンクロさせる丸山は、もっとこの競技の真髄を見たいと考え始めている。
気づけば、福岡にいた頃よりもラグビーが好きになったような。
「楽しいですけどね。作り上げる、どうやったら勝てるか(を考える)…みたいな。最近、ずっと試合、観てますよ。他の大学の試合とかも。スーパーラグビー(国際リーグ)のチームって、派手なことをやってるみたいじゃないですか。違うんですよ。基本を、やっている。地道に皆が走っています。特別なことは、必要ないですね」
信じたものと正直に向き合う。