ラグビーリパブリック

【コラム】再建への苦闘。

2019.05.10
スピーディーなランニングラグビーは健在。優勝した南アフリカのポールルースジムナジウムのコーチは、その速さを「まるで20人いるようだった」と語った(撮影:早浪章弘)

スピーディーなランニングラグビーは健在。優勝した南アフリカのポールルースジムナジウムのコーチは、その速さを「まるで20人いるようだった」と語った(撮影:早浪章弘)

◼️できる努力を全力で続ける

 これが産みの苦しみというものだろうか。

 かつて高校ラグビー界きっての知名度を誇った名門が、いま、試練を味わっている。

 ゴールデンウィークに福岡県宗像市のグローバルアリーナで開催されたサニックスワールドユース交流大会。世界8か国の強豪校と国内トップクラスの8校が参加する恒例の国際大会で、京都市立京都工学院高等学校は16チーム中12位という成績に終わった。予選プールはロシアのエニセイ-STMに43−15で勝利するも、のちに優勝を遂げるポールルースジムナジウム(南アフリカ)に7−49、全国選抜大会を制した桐蔭学園に3−24で敗れ、3位通過。続く順位決定トーナメントは1回戦で佐賀工業に29−12と勝利したが、2回戦で中部大春日丘に17−43で屈し、最終日の11位決定戦もウルグアイのザ・ブリテッシュスクールズに40−45と競り負けた。

 中部大春日丘に完敗を喫した試合の後。大島淳史監督は厳しい表情で敗因をこう語った。

「この大会を戦う中での、この試合に挑むための強さが、足りなかったですね。メンタル的にも、体的な部分でも。調子がいい時と悪い時の波もそうですし、それ(短期間でタイトなゲームが続く状況)を乗り越えるだけのエネルギーが、まだまだ足りなかった」

 今年1月に同じ会場で行われたワールドユース予選会では、決勝で御所実業を21−19と破って本大会の出場権を獲得している。しかし全国選抜大会の切符をかけて行われた3月の近畿大会では、2回戦で関西学院に開始5分で2トライを挙げたところから苦い逆転負けを喫した(24−40)。第5代表決定戦も御所実業との再戦に12−14で惜敗し、春の日本一を争う重要なステージに立つことはかなわなかった。

「御所実との第5代表決定戦は、やり切ったけど最終スコアで敗れたという試合でした。でもその前の関西学院戦は、どこか軽さと甘さがあった。そうさせている私の責任なのですが、やっぱりそこを乗り越えるための日頃のトレーニングと積み重ねをやらないとダメだな、と。ここ3年全国大会を逃している現状の中で、私も新しく監督になって、厳しさの判断基準がぶれていることが、弱さにつながってしまっていた。自分の力量不足を痛感しています」(大島監督)

 大島監督は、2000年度に伏見工業が3回目の花園優勝を果たした時のFLで主将。日体大を卒業後、京都市の中学校勤務を経て2014年から母校に赴任し、恩師である山口良治総監督や高崎利明・元監督(現GM)、松林拓・前監督のもとで、コーチとして後輩たちの指導にあたってきた。そして昨年の11月12日、京都府予選決勝で京都成章に敗れた後に、監督の任を引き継いだ。

 テレビドラマ「スクール☆ウォーズ」のモデルとなり、ミスターラグビー、平尾誠二氏をはじめ多くのトッププレーヤーを輩出、大一番で神がかり的な力を発揮して高校ラグビー史に残る数々の名勝負を演じてきた伏見工業は、日本でもっとも広く知られ親しまれてきたチームのひとつだ。

 2016年に洛陽工業と統合され、京都工学院に校名が変わっても、存在感は絶大だ。そのOBであり優勝キャプテンが、伝統あるクラブの最高責任者を任されたのだから、意気込みは推して知るべしだろう。

「歴史のある学校ですし、自分も育ててもらいましたので、今の子どもたちにも、同じような思いを持って卒業してほしいという気持ちはあります。将来につなげてほしいし、それだけの結果を出させてあげたい。重みはもちろんありますけど、そこはやりがいに代えていかんとあかんとこだと思っています」

 自身が日本一の旗を掲げた19年前に比べ高校ラグビーは大きく変わった。その後18回の花園で頂点に立ったのは、後輩である2005年度の伏見工業を除いてすべて私立高校。過去10年ではベスト4に進出したのも御所実業の4回だけだ。私学の勢いに押され、全国の舞台から遠ざかってしまった公立の伝統校は、ひとつや二つではない。

「もちろんそこは意識します。ただ環境面を見れば、学校名が変わってマイナスばかりかと言えばそうではなくて、我々もいいグラウンド、いい施設でトレーニングをさせてもらっているので。それ(公立高校だからということ)は言い訳にすぎない」

 ただし、新たな校名と移転された真新しいキャンパスに以前のような確固たるカルチャーを根づかせるのは、当然ながら時間がかかる。先々を見据えつつ、一日一日に全力を尽くす。目指す到達点にたどり着くためには、それを妥協せず、日々コツコツと積み重ねていくしかない。いまがクラブとしての踏ん張りどころと認識しているからこそ、つくづくそう実感する。

「やるべきことを、ひとつずつ積み上げていく。できる努力を全力で続ける。本当に、そこに尽きると思います」

 この春卒業した2018年度の3年生は、ちょうど伏見工業から京都工学院へ移行する年に入学した代で、クラブの先行きに対する不安から敬遠される風潮もある中で、志を持って京都工学院を選んでくれた部員たちだった。例年に比べ人数が少なく、ラストゲームとなった京都成章との府予選決勝は0−39の完敗だったが、高崎GMは試合後、その3年生たちにこう感謝の思いを伝えたという。

「このチームは必ず伏見工業のように輝くチームになる。君たちはその一代目や。いろいろ苦労がある中で、がんばって地盤を築いてくれてくれたのだから、胸を張ってほしい」

 今季のチームは、その決勝に先発した15人のうち11人、途中交代も含めれば15人の出場メンバーが残った。看板のBKにはキャプテンのSO井上陽公やCTB澤井育実らスキルフルなタレントが並び、FWにもLO/FL森山迅都、FL/NO8松永壮太朗と能力の高い大型選手を擁する。持てる力を出し切ればどの相手にも勝利できるポテンシャルが、十分ある。

 府内のライバル、京都成章は高校ラグビー史上最大とも評される超大型FWを武器に近畿大会を快勝し、全国選抜大会では準決勝で桐蔭学園に肉薄、ワールドユースでも国内外の強豪と好勝負を繰り広げるなど、順調な春を過ごしている。現時点での立ち位置を比べれば、小さくない差があることは否めない。しかし、ここという決戦で説明不能の力を発揮し、予想を覆す勝利を収めてきたのが、伏見工業の歴史だ。

「その力を出すための準備を、やり切りたい」(大島監督)

 相手が強大であればあるほど燃える。それもまた、伏見工業の伝統である。


選手に語りかける大島監督。真っすぐな視線が意志の強さを感じさせる(撮影:早浪章弘)