ラグビーリパブリック

【ラグリパWest】岡山から全国区へ。 創志学園

2019.05.08

岡山・創志学園は初の中国大会出場を決めた。部員28人と女子マネージャー5人は笑顔を浮かべる



 創部10年目で初の中国大会に出場する。
 岡山にある創志学園だ。

 主将の木下虎一(こいち)は腕ぶす。
「優勝争いができるように頑張りたいです。それができればみんな自信がつくし、秋の全国大会予選につながります」
 169センチ、84キロのナンバーエイトは、細い目を光らせる。地元出身。中学では柔道をやり、初段をとった。どんぐりのように実の詰まった体は突破力に富む。

 5校参加の県春季大会では、準決勝で倉敷工を28−14。全国大会5回出場の「クラコー」にダブルスコアで勝った。
 決勝の玉島にこそ12−36と差をつけられたが、岡山2位の座を確保する。

 武田裕之は28人の部員たち(3年=8、2年=13、1年=7)をねぎらう。
「よくやってくれました」
 ラグビー部監督は52歳。保健・体育教員でもある。

 その学校創立は1884年。名称や経営母体の変遷があり、2010年から学校法人「創志学園」が運営を担う。全日制共学。普通、看護の2科制をとる。キャンパスはJR岡山駅から徒歩15分ほど。市内北区にある。
 法人は系列校となるIPU・環太平洋大やクラーク記念国際高などの運営も手掛ける。

 ラグビー部は開学と同時に作られた。2年後の2012年に武田が赴任する。母校でもある天理高では監督などをつとめた。

 現役時代はフッカー。高2の63回大会(1983年度)では全国優勝を果たす。大分舞鶴を18−16で振り切った。
 天理大に進み、教員免許を取得。就職はNTTを選ぶ。トップリーグチームのドコモの前身となる大阪や関西でプレーを続けた。

 引退後は社業に専念。東京で勤務するが、コーチとして天理高に呼び戻される。
 84回大会(2004年度)の準優勝は、武田の力によるところが大きい。
 4連覇する啓光学園(現常翔啓光)に14−31で敗れたが、飛び出しと流しを組み合わせた守備システムを機能させた。当時のビッグタックルの中心は八役大治。専修大からトヨタ自動車に進むセンターだった。
 天理は全国優勝6回、歴代4位の記録を持つが、決勝進出はこれが最後になっている。

 翌年度、監督に就任し、チームを3大会連続で花園に導く。その間、1年生から公式戦に出続けたのは立川理道(クボタ)。日本代表キャップ55を持つスタンドオフのユース時代の成長に関わる。
「今でも忘れずに連絡をくれたり、ハルは優しい教え子です」
 立川が3年の87回大会は8強敗退。長崎北陽台に10−14で敗れた。




 監督は5年つとめて退任。ラグビーから2年離れた後、創志学園での指導を選んだ。
「チームを一から作ってみたかったのです。それまでは、でき上がった中学生たちをいただいていましたから」
 奈良から岡山に単身赴任する。

 県勢の全国大会出場は45回。昔は「東中国」の区割りで、広島との決定戦に勝たねばならなかった。隔年を経て1県1校方式になったのは65回大会(1985年度)である。
 最多出場は11連覇を含む津山工の24回だ。最高位は8強。31回大会で県勢として初出場した岡山西(現岡山工)と42回大会で関西(かんぜい)が成し遂げている。関西の創部は1927年(昭和2)。県内最古である。
 ここ7年ほどは津山工、倉敷工、玉島の三つ巴状態だった。

 創志学園はそのひとつ、倉敷工を破る。
 強化のため、武田はこれまで色々な手を打ってきた。
 バスの運転もそのひとつ。校内グラウンドは土、さらに斜めにとっても50メートルほどしかない。そのため、人工芝のあるIPU・環太平洋大まで片道30分かけて部員を運ぶ。大型免許は天理時代に取っていた。

 県外の経験者を集めるため、身銭も切った。ラグビー部寮を作る。
 学校から徒歩5分の場所にNTTの単身者寮があるのに目をつける。ツテを使って1棟12部屋を借り上げた。24人が入寮できる。
「お世話になった会社はありがたいです」
 交渉担当者は理由を聞き、ベッドや机など5つの生活必需品を無償でつけてくれた。

 管理栄養士も雇い、3食を用意する。
「だけど死にそうになりました。母の遺産が入ったからやってみましたけど、経営は大変で大変で。光熱費なんかバカになりません」
 その状況に学校も動く。2017年から強化クラブに昇格。寮経営を引き継いでくれた。

 元々の強化クラブは男子の野球、女子のソフトボールと柔道だった。
 野球は2011年、83回選抜に出場。春夏通じて新記録となる創部1年目での甲子園は話題を呼んだ。2016年には88回選抜、98回選手権と春夏連続出場を果たしている。

 強化クラブとなって3年目。武田が赴任して8年目に入った。今は家族4人と岡山市内で暮らしている。長男の誠太郎は石見智翠館から早稲田大に進んだ。スタンドオフとして最終学年を迎えている。

 自宅の近くには日本三名園のひとつ、後楽園がある。
「まだ行ったことはありません」
 今の時期、緑まぶしい庭園に目を向けない努力は徐々に報われようとしている。

 62回目となる中国大会は、5月11、12日の週末、コカ・コーラボトラーズジャパン広島県総合グラウンドで開催される。
 創志学園は各県2位が集まるBブロックで大津緑洋と対戦する。統合前の大津や山口水産時代を含め全国大会出場29回の名門だ。
 キックオフは11日の12時45分になった。

 今年、ファーストジャージーの色をスクールカラーの青から赤に変えた。
「5年間使いこんでボロボロになったこともありますが、創志学園は変わった、と他校に思わせたい部分もあります」
 武田が意図したとおりの印象を与えるためにも、自信のあるフォワードを前面に押し出し、初めてのステージで躍動したい。

武田裕之監督。天理高の現役時代は全国優勝、コーチ時代は全国準優勝を経験している


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