アメフト+サッカー=現代ラグビー。
さすがはエディー・ジョーンズ、うまい表現だなあと思う。
東京で4月14日に催されたコーチングセミナー「アンサンブルラグビー」。講師のエディーさんが開演前、メディアとやり取りする時間を設けてくれた。イングランド代表の変化について聞かれ、答えた。
「元々、イングランドはアメリカンフットボールの要素に強みを持っている。ただ、ワールドカップで優勝するためにはサッカーの要素にも長けていなければならない」
アメフトの要素とは、セットプレーとそれを起点に準備されるストラクチャーのこと。強く大きなFWを前面に押し立ててスクラムとラインアウトを支配し、単純でも確実なストラクチャーでゲインラインを切っていくのがイングランドの伝統なのは言うまでもない。「ボールを保持し、少ないフェーズで圧倒するのは得意だからね」
でも、もはやそれだけでは勝てなくなったこともまた、言うまでもない。
「例えばキックを蹴れば、必ずトランジションが起こりうる。攻守の切り替えだ。ターンオーバーも然り。いかに素早く反応し、切り替えの局面を制することができるか。いまのラグビーは、ストラクチャーとトランジションの組み合わせなんだ」
なるほど、エディーさんが率いるイングランドの変貌を見れば明らかだ。あの大男たちが、パワーを生かしてゆったり前進するだけではなくなった。縦横無尽に走り回って密集に殺到。浅く狭いアタックラインから繰り出す高速展開。そこには試合のテンポを上げるだけでなく、どこでトランジションが生じても数的優位を保つ狙いがあるのだと察する。
そして特筆すべきは、ラインアウトを整える早さだ。ボールがタッチラインを割ると、あの大男たちがさっと駆け寄り、それぞれの位置を取り、相手を急かすように待ち構える。ある意味、ラインアウトのトランジションを制しているのだ。その所作が眼前の敵に与える心理的な重圧たるや相当だろう。繰り返すが、あの大男たちが、だ。日本の小さきFWたちに、ぜひ学んでほしい所作でもある。
こうやってラグビーは複雑化の道をたどるばかり。立て板に水なエディーさんの説明は、その複雑系をわかりやすく因数分解する。
「例えばブレークダウン。昔はFWの8人全員が機械的に一つのラックに集まっていた。それが4人に減り、3年前は2人になった。いまは最初にラックへと到達する選手に判断が要求される。相手がそのブレークダウンを捨てるのであれば、あえてラックに入る必要はないよね?」
「キッキングゲームも進化している。以前なら、キックを追うのはせいぜい3人。いまは10人だ。敵味方ともキックの精度が高まり、種類も増えている。組織だって網をかけなければならないんだ」
だから、複雑化する攻防を「コーチは練習に落とし込む必要がある」と続く。一転、試合を迎えれば「選手に伝えるキーポイントは三つに絞るべきだ」とも。
準備に準備を重ねた末、いざ本番は一点、いや三点突破。すると選手の頭の中はクリアに研ぎ澄まされる。準備が綿密であればあるほど、想定外の展開にも対応できる。勝負の王道だ。
なんとなく感覚的には気づいていた諸々の事象を、エディーさんは明確に言語化してくれた。かゆいところに手が届く弁舌は、コーチに欠かせない資質で、得難い資質だ。
さて、いきなり話は飛びます。私事で恐縮なのですが、4月に記者からデスクになりました。デスクの主な役割は、現場の記者から届けられた原稿を監修したり、取材方針への助言だったり。選手からコーチになったようなものです。
この春、会社や学校で同じように立ち位置が変わった方も多いのではないでしょうか。役得で、エディーさんに教えを請いました。新米コーチたちに贈る言葉を。
「先輩に学びながら、独自の指導法を模索してほしい。その人のようになりたいと思っても、すべてを完全にコピーすることはできないのだから。自分らしいコーチング、自分だけのオリジナルを築き上げていってほしい」
唯一無二のオリジナルであれ。つまり、自分らしくあれ。
行き詰まった時は、エディーさんのエールに立ち返ろう。