フレーズは「金髪をなびかせて」。
しかし、ラグビーは甘くも優しくもない。
えぐい。
彷彿とさせるのはジャン・ピエール・リーブ。
40年近く前のフランス代表の闘将も同じ感じの髪、色だった。
ティエナン・コステリー。
マイカ・ナシラシラとともにIPU・環太平洋大におけるチーム初の留学生になった。
IPUはInternational Pacific Universityの略。2007年に岡山に開学し13年目を迎える比較的新しい私立大である。
この6月で19歳。王国・ニュージーランド(NZ)から1年生入学の理由を話す。
「日本のラグビーのレベルは高くなっています。そして将来性があります。そこで自分を磨いてみたいと思いました」
入学直後、4月13日の関西セブンズフェスティバル(7人制)で鮮烈デビューを飾る。
1回戦は関西大。0-5の前半3分、2人を抜き、ひとりをずらしてボールを放る。古堅哲真のトライを呼び込む。そのスピードは192センチ、90キロのサイズを感じさせない。6分には大外でパスをもらいインゴールに飛び込んだ。
後半開始12秒で右親指を脱臼する。
痛みに耐えながら、4分には3人をひきつける。ナシラシラへ5点へのラストパス。1トライ2アシストとそれまでの3トライすべてに絡んだ後、ピッチを離れた。
試合は31-10。昨年、関西Aリーグだった伝統校を撃破する原動力になる。
フランカーとして日本代表キャップ4を持つ監督の小村淳は、その気迫に驚く。
「脱臼をしてるのに、試合に出してくれ、って言ってくるんだよね。すごいよね」
生半可な気持ちでの留学ではない。
軸の抜けたチームは、次戦の準々決勝で前年優勝の天理大に7-44と大敗した。
S&Cコーチの髙山慎は話す。NZで教育を受け、通訳も兼ねている。
「セブンズから帰ってきて、まだまだ自分のレベルは低い、って言っていました」
先輩留学生であるシオサイア・フィフィタ(天理大3年)やテビタ・タイ(摂南大2年)の強さや速さに刺激を受ける。
フィフィタはジュニア・ジャパン(日本代表の下のカテゴリー)、タイはトンガ7人制代表だ。彼らと比べて自分を客観視できる。その上で向上心もある。練習終わりには、サインプレーや練習内容、気づいたことなどを手のひらサイズのノートに記している。
自分自身を「タマ」と呼ぶ。そして、そう呼ばれることを好む。Tama=息子。NZ先住民族のマオリの言葉である。
「自分の使命を忘れないためです」
父・ステファンは、脳に起因する進行性の運動神経障害を発症している。すでに会話がうまくできない。
「父の容態はよくありません。その中での決断は大変でした。ただ、父に自分という息子がいるという誇りをもってもらうためにも、日本に行く道を選びました」
イギリス系のタマには、マオリの血も若干混じっている。
その父を含め、母、そして2人の兄の家族4人とは、無料のビデオ通話アプリでコミュニケーションをとっている。顔が見えるため、ホームシックにはかかりにくい。
タマはオーストラリアで生まれた。NZに移り、オークランドで育つ。NZ最大で150万人以上が暮らす都市を本拠地にするブルーズの18歳以下代表に選ばれた。南半球を中心とした国際リーグ、スーパーラグビーの代表的チームのひとつである。
ポジションはフォワード3列目。いわゆる「ルース」。小さい頃からのあこがれは同じ位置で活躍したブラッド・ソーン。スーパーラグビー、レッズの現ヘッドコーチには会った時に言われた。
「いい選手になりたければ、12時間だけ頑張ってもダメ。24時間それを続けないと」
NZ代表で59キャップ。13人制のリーグから15人制のユニオンに転向した経験を持つ指導者の言葉は強く心に残っている。
ウエストレイク・ボーイズ・ハイスクール在学中に留学の打診があった。神戸製鋼で通訳をするジョー・ラッシュを通じてだった。ラッシュはNZにある兄弟校のIPUニュージーランド大を卒業。監督に就任して2年目の小村は神戸製鋼のOBでもある。
少なくない縁が今回の話を運んで来る。
3月23日に来日。小村はびっくりする。
「去年の12月に下見に来たのね。その時は100キロオーバーの体でした。でも3月には90キロちょっとに落として来たのよ。10キロ近く絞ってきてくれました」
セブンズへのフィットは当然だった。
大学では1日6時間の日本語の猛レッスンが始まっている。しかし、疲れはない。
「高校時代、6時間の授業は普通でした」
日本が気に入っている。
「みんなが礼儀正しいし、ものごとは時間通りに進みます。食べものも美味しい。特に焼き肉が好きになりました」
部員たちとすでに学校近くにある食べ放題の店に通ったりしている。
ラグビー部は創部13年目を迎える。開学と同時に作られた。
昨年は第55回大学選手権出場への代表決定戦で朝日大に17-59と敗れた。
新年度の目標は変わらない。中国・四国の代表として、東海・北陸の覇者を破り、初の選手権に駒を進めることである。
「チームを有名にして、みなさんから見てもらえるようにしたいですね」
タマには起爆剤としての期待がかかる。
チーム躍進の先には、自分の未来が重なる。
「トップリーグに入って、最終的には日本代表になりたいです。7人制が好きなので、そちらの代表にもなれたらいいですね」
オールブラックスよりジャパン。
来日してまだ1か月。すでに、日の丸を背負う心構えはできている。