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同性愛者中傷で解雇通告されたフォラウ、審議を要請。世界的スターの未来は…

2019.04.17

イズラエル・フォラウ。再びゴールドジャージーを着ることはできるのか(Photo: Getty Images)

 同性愛者などに対する暴言を繰り返し、オーストラリアラグビー協会から解雇通告され引退の危機に直面している世界的スーパースターのイズラエル・フォラウが、キャリア続行へ向けて闘う意思を示した。

 4月15日に同協会から雇用契約の終了を正当化する行動規範違反の通知を出され、処分を受け入れるか、48時間以内に返答がない場合は契約解除が決まることになっていたが、17日のリミット数時間前、フォラウは審議会の招集を要請した。

 審議の過程には、オーストラリアラグビー協会の代表、選手協会の代表、そして両組織によって承認された独立した人物が含まれ、フォラウが行動規範に違反したかどうか、もしそうであれば、どんな罰が適切かを判断する。
 審議会の日程は調整中。
 フォラウは「言論の自由」を主張すると思われる。

 開幕まで5か月と迫ったラグビーワールドカップで、20年ぶりの優勝を狙うオーストラリア代表“ワラビーズ”のキーマンと見られていたフォラウだが、日本で開催されるその大舞台で彼の勇姿を見ることはできないかもしれない。

 敬虔なクリスチャンとして知られるフォラウだが、極端な宗教的見解を公に発信して大きな騒動となった。
 フォラウは4月10日、インスタグラムに「酔っぱらい、同性愛者、姦淫者、嘘つき、詐欺師、泥棒、無神論者および偶像崇拝者――君らには地獄が待っている。悔い改めよ! 神のみが救う」と投稿し、物議を醸した。過激な発信は今回が初めてではなく、昨年もインスタなどで同性愛者を中傷するような投稿をし、警告を受けて発言を控えていたのだが、再び騒動を起こすことになり、オーストラリアラグビー協会は「容認できない。重大な規定違反」とし、15日に契約解除の通告に関する会見をおこなっていた。

 フォラウは今年2月、同協会ならびにワラターズ(NSWラグビー協会)と4年総額400万豪ドル(約3億2000万円)といわれる大型契約を結んだばかりだった。

 現地メディアによれば、フォラウはショッキングな投稿後、連絡を取ろうとしたオーストラリアラグビー協会とNSWラグビー協会を無視していたが、事態の深刻さを認識し、12日に面談。しかし、契約通りワラターズとオーストラリア代表でプレーを続けたい意向を示したものの、同性愛者に対する自身のコメントを撤回したり謝罪するつもりはないと語ったという。

スーパーラグビーで歴代最多の60トライを挙げたフォラウ(Photo: Getty Images)

 フォラウの差別的ともとらえられる投稿に対してはさまざまな反応があった。
 多くの人々が激怒し、オーストラリアのスコット・モリソン首相、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相、イギリスを拠点とするLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーをはじめとするセクシュアルマイノリティの総称)支援団体なども批判した。
 元オーストラリア代表のティム・ホランは、「私が知っているイズラエルは素敵な男です。彼は陽気なタイプの男です」とかばったが、投稿については「自分本位だと思う」と厳しく見る。
 同じくワラビーズOBのマーク・ジェラードは、アンチゲイの主張を繰り返すフォラウは「バカ」だと非難し、多くの人を傷つけ失望させ、歴史に名を残すような才能を持ちながら中途半端な形でキャリアを終えることになるかもしれない30歳のスターに対して怒りをあらわにした。

 そして、日本代表主将のリーチ マイケルもフォラウに対してビデオメッセージを送り、「私が正しいか間違っているかどうか、よくわからないけど、あなたがおこなった投稿は間違っている。謝罪するか、修正するために何かをするべきだと思う。あなたは素晴らしい選手だ。それについては疑いの余地はない。そして、あなたはいいやつだと思うが、やり方は間違っている」とコメントした。

 一方、イングランド代表のビリー・ヴニポラはフォラウ支持と同情を表明し、のちに、所属しているサラセンズとイングランドラグビー協会から警告を受けたが、フォラウの投稿に「いいね」とした選手は他にもいる。元オーストラリア代表ヘッドコーチのアラン・ジョーンズはラジオ番組で、協会の決定は「オーストラリアでの言論の自由を完全に破壊した」と語った。

 近代ラグビーにおいて、フォラウは間違いなく最高プレーヤーのひとりだ。13人制のラグビーリーグ、オーストラリアンフットボール(オージールールズ)と、異なる楕円球競技で名声を上げたあと、2013年に現在関わっているラグビーユニオンに転向。まもなく15人制のオーストラリア代表に選出され、同年6月の初キャップから昨年11月のヨーロッパツアーまでにテストマッチ73試合に出場し、37トライを挙げてきた。スーパーラグビーにおいては、彼にとって出場96試合目だった今月6日のブルーズ戦で通算60本目のトライを決め、歴代最多トライの新記録を樹立したばかりだった。空中戦では驚異的な強さを誇り、ラン、パススキル、センスどれも一級品。オーストラリア国内の年間最優秀選手に贈られるジョン・イールズ メダルは3回も受賞している。そして、2020年に東京で開催されるオリンピック(7人制ラグビーを実施)にも関心があることを口にしていた。

 1999年のワールドカップ優勝メンバーであるジェレミー・ポールは、フォラウなしでは、オーストラリア代表は今年のワールドカップで優勝できないと断言する。ラグビー選手としての才能は誰もが認める。

フォラウとの契約解除について会見する豪州協会のラエリーン・カッスルCEO(中央)。
左は NSW協会のアンドリュー・ホアCEO(Photo: Getty Images)

 それはオーストラリアラグビー協会も同じだ。
 しかし同協会は、「人種、性別、宗教などによって人々を非難し、中傷し、差別するようなことは許されない。イズラエルには信仰の自由があるものの、投稿の内容は受け入れることができず、こうした方法で信条を主張することはこのスポーツの価値とはそぐわない。ラグビーコミュニティーのメンバーに対する冒涜(ぼうとく)だ」と批判した。

 ラエリーン・カッスルCEOは声明のなかで、「昨年の事件後、イズラエルはワラビーズそしてワラターズの選手として、ソーシャルメディアの使用に関して正式に繰り返し警告されたが、それらの義務を果たすことに失敗した。セクシュアリティなことで人々に失礼なコメントをしたりソーシャルメディアに投稿することは、懲戒処分の対象となることを彼にははっきりさせていた」とコメントしている。
 フォラウとの契約にはソーシャルメディアの使用に関して具体的な条項がないことを明らかにしたが、1年前に同様の騒動があったあと、失礼な投稿をしないよう、書面による合意があったという。

 カッスルCEOはフォラウに行動規範違反の通知を出すことを決定したのは、宗教的理由ではないと述べている。
「これは宗教的な議論ではない。従業員、雇用主の関係、およびその契約内の価値および契約上の取り決めについての議論であり、私たちが彼に違反通知を出した根拠に基づいている」

 NSWラグビー協会のアンドリュー・ホアCEOは、フォラウの契約終了はワラターズまで及ぶ可能性が高いと述べた。

 オーストラリアラグビー協会がフォラウに対して厳しい立場をとるのは、スポンサーからのプレッシャーも大きく関係しているといわれている。現地メディアの『デイリーテレグラフ』によれば、スポンサー4社のうち2社が同協会に「フォラウを解雇しなければ契約を更新しない」と伝えてきたという。
 主要スポンサーであるカンタス航空との現在の契約は年末が期限のため、更新については交渉中だ。カンタスのアラン・ジョイスCEOは同性愛者であることを公にしており、同性婚支持者であり、フォラウの投稿についてカンタスは「本当に残念だ。私たちが支持する包含と多様性の精神を明らかに反映していない」と声明を発表した。
『ジ・オーストラリアン』によれば、カンタスが他のスポンサーと一緒に離れた場合、オーストラリアラグビー協会は2820万豪ドル(約23億円)近く失うことになるだろうと報じており、これは同協会年間総収入の約25%に相当するという。

会見をおこなった豪州代表のマイケル・チェイカHC(中央)。左はワラターズのダリル・ギブソンHC、
右は両チームで主将を務めるマイケル・フーパー(Photo: Getty Images)

 今回の騒動を受け、オーストラリア代表のマイケル・チェイカ ヘッドコーチは15日に報道陣の前に姿を現し、フォラウを再び選ぶかどうか尋ねられると、「現時点では…できないだろう。難しいと思う」と答えたという。「ゴールドジャージーでプレーするとき、我々はオーストラリアの全員を代表する。その全員が我々をサポートしている」

 指揮官は、フォラウが前回のスキャンダルから教訓を学んだと思い、再び起こることはないと信じていたが、「一線を越えた」と失望した。
「さまざまな人格のグループが常にある。私はそれが最良のチームを作るものだと思っている。読書が好きな者、静かなやつ、洒落や冗談を言って周りを楽しませる者など、異なったタイプの人間全員が、チームを次のレベルに持っていくために貢献していく。何を信じようが自由だ。しかし、チームが優先でない場合は問題になる」

 世界最高のフルバックを失うことになるかもしれないチェイカ ヘッドコーチは他の代表候補選手たちに、「みんなが互いの見解を尊重し、ワールドカップの年に一つにまとまって働くことがどれほど重要か」を語ったという。

 窮地に立たされたフォラウは、オーストラリアラグビー協会から契約解除の最後通知が出る前、「プレーを続けるにせよ、やめるにせよ、すべては神のおぼしめしであり、主の望みに喜んで従う」と地元新聞で語っていた。

 処分を受け入れず、審議会の手に委ねることになったが、はたして、フォラウはラグビーを続けることができるのか、新たな道を探すことになるのか、注目が集まる。

ファンを大切にしてきたフォラウ。影響力の強さをもっと自覚すべきだった(Photo: Getty Images)
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