◼️もし特例を当てはめるなら、内外を納得させる説明がなければ
サンウルブズの来季限りでのスーパーラグビー(SR)除外は、日本ラグビー協会の風通しの悪さを露呈した。
日本協会の坂本典幸専務理事とサンウルブズの運営母体「ジャパンエスアール」の渡瀬裕司CEOが、SRの運営母体であるSANZAAR(サンザー)の決定を受けて記者会見した翌日の3月23日。日本協会は急きょ臨時理事会を開き、日本が南半球4か国による「ザ・ラグビーチャンピオンシップ」(TRC)参入を目指すことを議題に掲げた。
その日は元々、協会の最高意思決定機関である評議員会が開かれる予定で、多くの記者が集まっていた。だが、事前に臨時理事会を開催することについては報道陣に一切公表されていなかった。TRC参入という日本ラグビーの未来に関する重大な議題であるにもかかわらず。そもそも、その場には協会の広報担当者は1人もいなかった。
臨時理事会では当然、サンウルブズの除外についてサンザーとの交渉経緯を問いただす声が出た。ある理事が「誰がサンザーに金を出せない、と判断をしたのか」と聞くと、坂本専務理事は「ギリギリになるまで先方から条件が出なかった」と答えたという。
この件は、日本側とサンザーとで意見が食い違っている。サンザーのメディア担当者は取材に対し、「ジャパンエスアールに最初に条件を示したのは2018年8月」と明らかにしている。一方、渡瀬CEOは会見で「正式に条件を確認できたのは数週間前」と述べていた。
臨時理事会で声をあげた理事は会場を出ると、「なぜ今年の2月や3月の理事会の時点で、何の報告もなかったのか。これだけ重要な事案を一部の人間で決めるのはおかしい」と憤りをあらわにした。これまでの理事会で’21年以降のサンウルブズが議論されたことは一度もなかった。
日本協会には役員(理事、監事、事務局長)が25人いるが、今回のサンウルブズ除外のような重要事項については、坂本専務理事やワールドラグビー理事を務める河野一郎副会長といった一握りの幹部だけで話し合われてきた。複数の中央競技団体にあるような5人程度の役員で協会の方針を取りまとめる「常務理事会」の枠組みもなく、内部から「密室政治」と批判の声があがる。
スピード感を持って新たな施策が次々と示されるなら、密室だろうが、独裁だろうが、ポジティブな受け止めもできる。しかし、あるトップリーグチームの幹部が「新たなリーグの方式に関する議論は進んでいない」と嘆くように、W杯以降の日本ラグビーの進路はいまだ不透明なままである。
日本協会は今年6月、2年に1度の役員改選を迎える。9月に開幕する日本大会を控え、これまで現体制の継続が既定路線と言われてきた。しかし果たして今のままでいいのだろうか。
日本協会の役員選定に関する規定には「満70歳以上の者は理事候補者となることができない」と書いてある。その上で「前項の規定にかかわらず、理事会は、特に必要があると認めるときは、理事会の決議に基づき、満70歳を超えるものを理事候補者とすることができる」と記してある。
つまり、理事の定年は原則70歳(選任時)だが、理事会が認めれば特例で許されるというルールだ。関係者によると、この規定は現在81歳で、名誉会長を務める森喜朗・元首相の会長時代に、森氏続投を念頭に変更されたものという。
現在6人いる会長と副会長のうち、現時点で70歳を超えているのは、80歳の岡村正会長を筆頭に5人いる。関係者によると、副会長と会長は75歳定年という内規があるらしいが、現在公開されている役員選任に関する規定にその記載を見つけることはできない。仮にその5人が続投を望む場合、森氏のように特例を適用していいのだろうか。
高齢化が進むこの時代に、一概に年齢で定年を区切ることがベストとは思わない。今の役員の人たちがこれまでいかに精力的にラグビーの発展に尽力してきたかを知っているし、功績を否定するつもりもない。それでも、サンウルブズの問題で協会のガバナンス(組織統治)の欠如が明らかになり、運営責任を持つ理事への風当たりが強まるのは健全な組織として当然のこと。公益財団法人である以上、人事に関する議論をつくし、もし続投する場合はなぜ特例を当てはめることになったのか、内外を納得させる説明がなければいけない。
33歳の太田雄貴会長率いる日本フェンシング協会は、デジタルを駆使した大会改革や外部人材の登用など、2020年東京五輪の先を見据えた施策をどんどん進めている。運営規模や競技人口など条件の異なる他競技と比べてもさして意味がないと言われるかもしれないが、フェンシング協会のように、いかに顧客満足度を高めてファンに足を運んでもらうかは運営サイドが持つべき基本姿勢だ。ラグビー協会には残念ながら、こうしたファンへの視点が欠けている。だから、今回のサンウルブズ除外のように、ある意味で唐突にファンの思いを置き去りにした事態が起きてしまう。
僕はたとえ、W杯前に協会役員の陣容が変わることになろうとも、「ポスト2019」の日本ラグビーをにらんで、リーダーの新陳代謝を進めるべきだと考えている。これまでのしがらみに縛られず、W杯後の設計図を描くことができるのはいましかない。