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【コラム】超える春。 齋藤直人[早大主将]

2019.04.04

進化を続ける。SHとして。主将として。(撮影/松本かおり)



 元号が変わろうが変わるまいが関係ない。人それぞれにとって、いつだって、4月は人生の節目だ。
 節目の上井草、桜は見ごろを迎えていた。早大の練習の虫にして新主将、SH齋藤直人に会った。

 ジュニア・ジャパンのことを聞きたかった。
 将来のフル代表を担うアイランダーたちが集った「パシフィック・チャレンジ2019」。フィジーの浜辺の穏やかなスタジアムで、若きジャパンは3試合を戦った。31-12と快勝したサモアA戦、24-66と突き放されたフィジー・ウォリアーズ戦に齋藤は先発した。

 いくつかの貴重な発見があった。
 サポート。齋藤が得意としてきたプレーではある。パスをさばき、ボールと味方を膨らむように追いかけ、湧き出てまたパスを受ける。意識せずとも表現できていた動きだ。
「それが今回、SHに求められる要素の一つとして、コーチからはっきり『サポート』と提示されたんです」

 確かにサモア戦、カウンターに自ら絡み、次々にチャンスをつくった。「湧き出る感」は、より増していた。
「いままで意識していなかった面を意識した分、より成長できたかな」
 強みは、研ぎ澄まされる。

 ちなみに2試合を通じ、齋藤が密集から自らボールを持ち出して仕掛ける場面が少なかったのには理由がある。
「まずFWにボールを渡し、相手に当てさせて、そのサポートをしようという原則だった。最初は戸惑ったけど、新しいシステムを経験できた」
 引き出しは、増える。

 そして、声かけ。森田恭平コーチに言われた。法大や神戸製鋼で視野の広いSOとして活躍した人だ。
「ただFWを整えるだけじゃなく、安心感を与えられる声かけをしろ」
 例えば、防御時の「出ろ」。教えられなくても、SHなら誰だってやる。森田コーチの言葉を、齋藤はこう解釈した。
「ただ、出ろって叫ぶだけじゃない。自分が後ろにいるから思いきって前に出ていいんだよっていう意図を込めなきゃダメなんだって気づかされた。FWには周りを見る余裕がないから」
 声に、心が宿る。




 最後、フィジー・ウォリアーズ戦の組み立て。
 いますぐフル代表に登用してもおかしくないようなパワーランナーをそろえた相手。海外遠征経験の豊富な齋藤も「いままで対戦した中で1、2を争う強さだった」と振り返った。ただ、42点差の大敗も、後半途中までは競っていた。もし、再戦できたら。齋藤はそこでの勝機を思い描けてもいた。

「映像で見返すと、外にスペースがあった。なのに内側のプレッシャーが厳しくて、外までボールを運べなかった」
 運ぶため、SHがやるべきこと。
「SHから一気に外、というのはやっぱり難しい。だから、もっとテンポを上げたい。テンポを上げて相手防御を揺さぶって、空いたスペースをどんどん広げたい」

 もちろん、緩急も心がけたい。緩急以上の、緩急を。
「緩急って言うと、言葉が簡単すぎる気がします。FWが崩れたら、いったん整えさせてからというか、むしろリセットさせるくらいまで整えてからテンポを上げる感覚で」
 ハイテンポは、さらにハイテンポに。抑揚は、さらに変化に富む。

 舞台は上井草に戻る。主将に指名されて、もうすぐ2カ月。
「遠征でずっと離れて、チームになじめていない。キャプテンらしいことは、まだ全然できていない」
 苦笑。いやいや、周囲の評は違う。寮生活での自律はさらに強まっているらしい。

 春の目標は、こう定めた。
「まずは自分のプレーを高めることが、一番のリーダーシップにつながる。全ての面で昨季の自分を超えていきたい」
 インタビューを終えると、こくりと頭を下げ、小走りでウェートトレーニングルームへと戻っていった。「圧倒的なフィットネスを身につけたい。判断の余裕も、フィットネスから生まれるから」とはにかんで。

 強みは、研ぎ澄まされる。
 引き出しは、増える。
 声に、心が宿る。
 ハイテンポは、さらにハイテンポに。抑揚は、さらに変化に富む。
 大きな飛躍を遂げる準備の時、節目の春だ。



【筆者プロフィール】
中川文如(なかがわ・ふみゆき)
朝日新聞記者。1975年生まれ。スクール☆ウォーズや雪の早明戦に憧れて高校でラグビー部に入ったが、あまりに下手すぎて大学では同好会へ。この7年間でBKすべてのポジションを経験した。朝日新聞入社後は2007年ワールドカップの現地取材などを経て、2018年、ほぼ10年ぶりにラグビー担当に復帰。ツイッター(@nakagawafumi)、ウェブサイト(https://www.asahi.com/sports/rugby/worldcup/)で発信中。好きな選手は元アイルランド代表のCTBブライアン・オドリスコル。間合いで相手を外すプレーがたまらなかった。