かれこれ10日ほど家に帰っていないなか、初出場の全国高校選抜ラグビー大会で予選プール2連勝。開幕直前までイギリスに遠征していた早稲田実業高ラグビー部が、タフになりながら結果を残している。
特に3月31日の2戦目では、冬の全国高校ラグビー大会で通算15度優勝の秋田工に14-12で勝利。先の年末年始にこの部を82年ぶり6回目の全国行きへ導いた大谷寛ヘッドコーチ(HC)は、「我々にとってアキコー(秋田工)に勝つのは感慨深い」と言って、会場の埼玉・熊谷ラグビー場のBグラウンドを後にした。
FBで先発の松下慶伍は、控室で着替えた後に言った。
「きょうの試合が大事だと思っていた。チーム全体で頭と心だけは整理して臨もうと話していました」
スポーツ中継チャンネルのJスポーツに務める大谷HCは、南半球主体の国際プロリーグを例に出して「スーパーラグビーよりも大変だぞ」と発破をかけるしかなかった。
2月の関東新人大会で4位となって選抜大会出場を決めた2019年度のチームは、3月21日にロンドン入り。学校の提携先で、競技名のもととなるラグビー校などと交流試合を実施した。帰国したのは選抜大会開幕前日の28日。先方の都合を踏まえ、過密日程に挑んでいた。
30日の選抜大会初戦(埼玉・熊谷スポーツ文化公園補助陸上競技場)では高知中央を24-17で制したが、松下は「身体が重かったので、いつもの試合よりも疲れるのが早かったり、足がむくんでいたり」と証言。スーパーラグビーを例に出した大谷HCも、「やっぱり食生活(の変化)が大きいかな…」と見る。
「本人たちは『時差ボケはない』と言っているんですが、体重が落ちる選手、体調を崩す選手もいた」
裏を返せば、初戦の翌日に組まれた秋田工戦へはよりよい状態で臨めたという。防御のしぶとい相手を前に、松下は鋭いカウンターアタックやスペースへのキックで応戦できた。そもそも大型移動を絡めた長期遠征にも、いくつかのメリットがあったようだ。
ひとつは、部員たちの適応力アップだ。大阪・東大阪市花園ラグビー場での全国大会を踏まえ、大谷HCは「遠征先で力を発揮するには、遠征慣れも必要」と実感。昨季2回戦敗退の花園で、今季は3回戦進出を目指しているのだ。ロンドン、熊谷を渡る旅の価値は、これから大きくなりそうだ。
長期ロードのもうひとつのメリットは、このスポーツ発祥の地から得た無形の財産である。
松下が覚えているのは、試合前の写真撮影時に初対面の相手選手から積極的に話しかけられ肩を組んだこと、試合でグラウンドに倒れるや相手に手を貸してもらったことだ。これまで団体球技として楽しんできたラグビーの土壌や背景に、改めて触れた気がしたか。いくつかの思い出を振り返り、松下は言うのだった。
「ラグビーの奥深さ、素晴らしさを確認できました」
前回の花園では、結果4強入りの流経大柏に0-53で完敗。大谷HCは「全国の舞台で厳しいゲームをするとチーム力が上がるとわかった。ここ(選抜大会)で本当に全国の強豪のレベルを体感して、最終的には花園の目標達成につなげたい」。まだまだ続く選抜大会でも、強豪から課題を得たいとする。松下はこうだ。
「花園ではメンバー入りしていたけど試合には出られなかったので、悔しさはあった。今年はそれを晴らそうとしています」
旅で心身を逞しくする早稲田実業は、4月2日、選抜大会の予選プール3戦目をおこなう。相手は優勝候補の京都成章だ。