自分自身の成長がコカ・コーラのトップリーグ復帰につながる。
ウイング・津岡翔太郎の思いは強い。
この4月、入社2年目に入る。
自己目標を設定する。
「オーバーエイジ枠でユニバーシアードに出たいですし、さらにオリンピアンになれたらいいなあと思います」
今年7月、イタリア・ナポリでの「大学生の世界大会」参加を目指す。その上で、来年の東京オリンピックを見据える。
津岡は今年1、2月にあった男子セブンズTID(Talent IDentification=人材発掘・育成)キャンプに参加した。
7人制の若手代表候補に選ばれるだけあって、身体能力は群を抜く。
40メートルは4秒7。立ち幅跳び3メートル10には笑いながら注釈がついた。
「その時はちゃんとしたシューズではなく、オニツカタイガーを履いていました」
底が比較的薄く、反発力が少ない靴でも記録を残す。
しかし、そのバネを使えなくなるような選手生命の危機があった。
2年前の秋、強い脳震とうに見舞われる。
帝京大4年で出た国体でだった。
出身校が佐賀工の縁で県代表として戦う。その時、相手のヒザが後頭部に入った。
「まっすぐ歩けませんでした。すぐにこけました」
大学病院での診断は絶望感を呼ぶ。
「ラグビーができなくなる可能性がある」
コカ・コーラは3年時から、当時の採用担当だった西村将充がスカウトをかけていた。
津岡は会社に善後策を相談する。
「仮にラグビーができなくなっても構わない。それだけで採用を決めた訳ではない」
世界的企業の懐は深かった。
大学9連覇を横目に安静を貫く。
昨年4月の入社後にはチームドクターにも診察してもらった。
「5月から、ジョギングを始めました」
7月からラグビーに復帰する。
津岡は心に誓う。
「会社とチームに恩返しをせんといかん」
その気持ちを知るように、ヘッドコーチのアール・バーは本格練習2か月の新人をトップリーグ開幕戦に抜擢する。
9月1日、ヤマハ発動機戦で深紅の背番号11をまとった。
リーグ戦初出場、初先発。しかし後半、絶対的なトライシーンを妨げられる。
タッチライン際の40メートルを最速で逃げる。ボールを地面につける寸前、ゲリー・ラブスカフニに182センチ、88キロの体は吹っ飛ばされる。
「悔しかったです。あんなことは初めて。斜め後ろから角度をバッチリ合わされました」
南アフリカから来た同じ学年のウイングに国際レベルを思い知らされる。
3-43の敗戦はにがみを増幅させた。
翌週のパナソニック戦では連続先発を決める。前半10分、リーグ戦初トライも挙げた。ただ、うれしさは微塵もない。
自分にとってホームに等しい佐賀での一戦で17-62と大敗したこともあるが、初戦の不甲斐なさが残っていた。
リーグ戦出場はこの2試合のみだった。
雪辱、そして自己目標を達成するため、実践しだしたことがある。
「どんなことでも1位を取ろうとしています」
外国人選手に勝ったり、国際大会に出るためには、些細なことでもこだわりを持って臨む大切さに気づく。
「今まで人と競ったことがなかったのですが、どっかで1位を取っている人でないと、日の丸は背負えんと思うようになりました」
60メートルを2往復するシャトルランでもぶっちぎりのトップを続けるようになる。
津岡は能力が高い分、執着や主体性が薄かった。余裕の裏返しである。
福岡・城南中では、「ダンスをするつもり」が、1学年上の牧野内翔馬(現NTTコミュニケーションズ)に、ラグビー部に引っ張られた。その脚力に目をつけられた。
佐賀工では高1の1月から、高3の4月にかけ、1年半ほどラグビーができなかった。股関節を3回骨折する。復帰して、最初に声をかけてくれたのが帝京大だった。
大学では、1年時の朝日大戦(51回大学選手権、83-12)や4年時の成蹊大戦(対抗戦、70-0)に先発する。
しかし、同期には尾崎晟也(サントリー)、1年下には竹山晃暉(パナソニック)らがおり、試合数を重ねられなかった。
コカ・コーラには社員として採用された。業務は精神的な成長を助ける。
所属する東福岡支店のベンディング事業部で自販機の補充などをする。
「雨の日も風の日もこういうことをしている人たちがいるのかと思うと、ボタンを押すときに感謝の気持ちを持つようになりました」
感謝があれば人は成長する。周囲が手を差し伸べ、より高みに導いてくれるからだ。
チームは昨季の入替戦でNTTドコモに24-33で破れ、トップリーグ落ちする。
今年はワールドカップによる変則日程で入替戦がない。それでも前向きだ。
「カップ戦、トップチャレンジを勝っていきます」
昨季はリーグ戦とそれに伴う順位決定戦、そして入替戦と11戦して全敗した。
今のコカ・コーラにシステムは関係ない。必要なのは白星の積み重ねだ。
他者との勝負に目覚め、同時に謝意を理解するようになった津岡。抜きんでた身体能力で、チームをけん引しなければならない。それが課せられた使命であるからだ。