楽しいアイデアが次々に飛び出した。
試合会場で、日野の野菜を買えるようになったらいいね。応援にきた人が、大根を背負って帰ったり。そうだ、ラグビー教室と収穫体験を組み合わせるのはどうだろう――。
『ラグビー×農業』にみんながワクワクしていた。
日野市の地元食材を使ったアスリートフードの試食会イベント『DOLPHINS×GARDEN』(ドルフィンズ×ガーデン)が、3月15日、東京・日野市のコミュニティ施設「七ツ塚ファーマーズセンター」で開催された。
主催者は日野レッドドルフィンズの村田毅主将。そして提供食材を使用した、パフォーマンスを最大化させる食プロフラム「アスリートフード」の献立・調理を担当したのは村田英理子さん。
人気のアスリートフードマイスターで、村田主将の夫人だ。
夫婦共演となった試食会イベントには、日野レッドドルフィンズの選手10人、地元生産者、(株)アスリートフードマイスターの関係者らが参加。
20年以上農業に携わる日野市の荻原弘次副市長も激励に訪れるなど、「食」を通じて市、チーム、生産者らが親睦を深めた。
イベント後、トマトやアスパラガスを生産している遠藤喜夫さんは、さっそくチームに親近感を抱いた様子だった。
「良い仕掛けをして頂きました。コーディネートする人がいないと、やはり接点がありませんから。仲間の畑もたくさんありますし、収穫体験とか、もうそんな話も出ていました」
「いつも畑を通っているところを見ていますけど、ラグビー選手はあのガタイですから、『やあ』なんて言えないですもんね。これまで見ているだけでしたが、身近に感じました。『おらがチーム』という気持ちになりますね」(遠藤さん)
きっかけは昨年末、地域に愛されるチーム作りを模索していた村田主将が、健康食を通じた地元住民との交流を構想したことだった。
その後農業に精通する荻原副市長との面会を通じ、村田主将は「日野の農業の素晴らしさ」を知った。
かつて農業中心の宿場町だった日野は、農産物の直販所が50か所以上あるなど都市農業が発展している。
興味深い話も聞いた。
「日野市の小学校給食は、25パーセント近くが地場産だそうです。だから食材を作っている日野の生産者の方々には、『日野の子ども達を育てている』という感覚があるそうで、それを聞いて、地元の生産者の方々に、自分たち(日野レッドドルフィンズ)のこともそう思ってもらいたい、と考えました」(村田主将)
日野の農業を通じて、地域との絆を深められるのではないか。
そのために、まずレッドドルフィンズの選手は、日野市の誇りである地元食材をよく知らなければならない。
そして地元食材で身体を作り、日野市民が誇れるような戦いをトップリーグで見せていく。
「お互いに誇りに思える関係を作ることができれば、それは地域の活性化につながると思いました」
ただ地元食材を食べるにしても、アスリートだから専門の調理をして摂取したい。
幸運なことに、夫人がその分野の専門家だった。
ドルフィンズと地元農業のコラボ企画は、英理子夫人を介し、養成講座を提供している(株)アスリートフードマイスターに持ち込まれた。
同社の安藤由美子取締役は趣旨に賛同し、みずから荻原副市長に積極的に働きかけた。実現した今回の試食会では司会も務めた。
スポーツ選手には大きな力がある。安藤取締役はそう確信している。
「前にイチロー選手が『朝食にカレーを食べている』と言ったら、子ども達の朝食がカレーになったことがありました。スポーツ選手の”食”はそれくらい影響力があるんです。お母さんが『この野菜食べて』と言って嫌がる子どもでも、憧れの選手が『この野菜を食べて強くなった』と言ったら食べるんです」
「日野の選手にも『日野の野菜を食べて勝ったよ』と言ってもらえるようになれたらいいですよね。それは、日野の子ども達の食生活にとって大事なことだと思います」(安藤取締役)
日野の地元食材を使ったアスリートフードを通じ、関係者みんなが結びついて、お互いに誇りに思える関係を築いていきたい――そんな志のキックオフが、今回の『DOLPHINS×GARDEN』だった。
試食会に並んだ料理は、彩り鮮やか、味も大好評だった。
日野の豆腐・のらぼう菜を使用した「のらぼう菜の白和え」。みかん・カブの葉を使った「甘夏マリネ」。
日野のトマトと岩手県紫波町(日野市の姉妹都市)の黒豚を使った「豚しゃぶのトマト油淋ソース」も並んだ。
会の終盤には、日野の選手10名が一人ずつ挨拶に立ち、感謝を述べた。
LO庄司壽之が「僕の取り柄は動き回ることなので、フィールド外でも動き回ってチームに貢献したいです」と地域連係に意欲を見せれば、FL李淳也は「自分で言うのもなんですが、盛り上げ上手なのでイベントがあれば飛んでいきます!」と自己紹介して拍手を浴びた。
閉会の挨拶は、日野市の荻原副市長。
農作業をしてから出勤しているという副市長は、堅苦しい挨拶ではなく、夢、希望を語った。
「日野の市民の方々が、『おれが作ったキャベツ』『おれが作ったとうもろこし』をみなさんに食べてもらう――そういうチームが激しい試合をやって、おじいちゃん、おばあちゃんが応援する。今までと違ったチームになるだろうと思っています」
「いろいろな方々がこの企画に関わって頂いています。日野には皆さんを応援している人がたくさんいるということを、食を通じて、感じ取って頂ければと思います。これからもどうかよろしくお願いします」
昨年5月に企業名を外して「日野自動車」から「日野」になり、日野市とチームの関係は深まっている。日野市とドルフィンズの幸福な関係、取り組みはこれからも続きそうだ。