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【ラグリパWest】勉強とラグビーの両立で選抜出場。 長崎県立長崎北陽台高校

2019.03.22

長崎北陽台高校のラグビー部員たち。前列左から3人目が岡崎颯馬主将。中列右が浦敏明コーチ。後列左が品川英貴監督


 長崎北陽台は坂の上にある。
 登りきれば視界は開ける。白砂のグラウンドに青い空のコントラストが美しい。

 勉強とラグビー。両立を目指す高校は春の選抜を決めた。冬の花園と並び、20回目となる全国大会は3月29日に始まる。

 主将の岡崎颯馬(そうま)は力強い。
「予選リーグを突破して、ベスト4に進みたいです」
 OB監督の品川英貴は信任する。
「人格者。苦しい練習を笑顔でできます」

 5位までが選抜に出場できる2月の九州大会では3位に入った。準決勝では佐賀工に14-21と競り負けるも、順位決定戦では、大分舞鶴に43-19と差をつけた。

 北陽台は県内の公立難関校のひとつ。長崎西、長崎東、諫早などのグループに入る。
 平日の授業は7時間。練習は5時前後から1時間30分ほどしかできない。
「おしりは6時30分と決まっています」
 保健・体育教員でもある品川は説明する。
 土曜の午前中は自習と呼ばれる補習が入る。公式戦以外はラグビー部も参加する。

 部員は常に少ない。
 勉強での入学が基本になるため、ハードなスポーツは敬遠される。
 その中で芯になるのは推薦入学の5人。学校は「北陽台のスポーツはラグビー」として、県が認めているスポーツと芸術の特別枠すべてを振り向けてくれている。県内には10のラグビースクールがあり、楕円球になじんだ土壌はある。

 部員数は21(新3年=11、新2年=10)。女子が2人いる。
 身内で試合形式の練習はできない。
 品川はハンディを逆手に取る。
「稼働率から言えば、すごいと思います。休みなくどんどん回って来ますから」

 攻撃が3人、守備が5人の練習では、1回休めばすぐに次の順番が来る。
 穴を見つけて攻める。それを止める。守りに成功すると、前に出て腹ばいになって、後ろに戻ってセットする。そして、また突破しようとする者を抑えにかかる。

 伝統として、人がいない分、コンタクトによる消耗を避け、ステップやパスを使ったランニングラグビーを志向する。

 藤田雄一郎は言う。
「あの自己肯定感はすごいです。自分がやらんといかんとか、自分はケガできない、といった感覚を持ってやっています」
 率いる東福岡は九州大会を制した。今年1月3日の全国8強戦では40-12。花園優勝6回、歴代4位の記録を持つチームの監督は、それでも北陽台に畏敬の念を抱く。


 少人数にも関わらず、北陽台は昨年の17歳以下日本代表に2人を送り込んだ。
 岡崎はセンターで選ばれる。縦にも横にも動ける。ロックの亀井茜風(せんふう)は193センチと国際レベルのサイズ。フルバックの山口泰輝はその選には漏れたが、スピードあふれる走りはトライを予感させる。

 放課後の少ない練習量を補うため、朝練習がある。7時から1時間程度行う。
 ウエイトトレで体を作り、スクラムやラインアウトなどをこなしていく。

 品川を補佐するのはコーチの浦敏明だ。
 開校2年目の1980年(昭和55)に保健・体育教員として赴任。ラグビー部を作った。以来、教頭時代の3年を含め25年間、北陽台に携わる。定年退職し、古希を2つ超えた今もフォワード強化の責任を負っている。
「指導の基本は根気、それだけですよ」
 温和な笑みを浮かべる。朝練習では孫のような部員たちを愛車プリウスで最寄りのJR高田(こうだ)駅から送り上げる。

 長崎県勢はこれまで2回、全国大会決勝に進出している。
 最初は49回大会(1970年)の諫早農。目黒(現目黒学院)に16-20と惜敗した。
 次は浦が指揮した北陽台だった。74回大会(1994年度)では、連覇する相模台工(現神奈川総合産業)に12-27と及ばなかったものの、全国に強豪として認知される。

 浦はフォワードの勲章、いわゆる「餃子耳」を持っている。右がつぶれている。
 地元の佐世保工から日本体育大に進み、フッカーなどをこなした。大学4年時には副将もつとめる。卒業の翌年度(1969年)、チームは第6回大学選手権で初優勝を遂げた。

 品川は浦から数えて4代目の監督だ。
 今年44歳。166センチと小柄ながら、抜群の運動神経で、スタンドオフやセンターをこなした。北陽台から恩師と同じ日本体育大に進み、東芝府中(現東芝)に入社する。

 日本選手権3連覇の最後となる1998年度に社会人入り。以後、8季を過ごした。2004年度にはトップリーグ、マイクロソフトカップ、日本選手権の3冠を達成している。
「高いレベルでやらせてもらって、経験値をずい分上げてもらえました」

 北陽台の監督になってこの4月から11年目に入る。その間、チームを6回、花園に導いた。北陽台の出場回数は17。諫早農の15を上回り県内トップだ。その三分の一近くに品川は関わっている。

 浦の品川の評価は高い。
「教え子の中でもトップレベルです。現役の時は天才肌でしたが、ボールを動かすラグビーをよく教え込んでくれています」
 自身の感覚をわかりやすく言語化できる能力。その希少性を浦は知っている。

 選抜大会は2年連続6回目の出場になる。8つある予選グループのDに入った。東海大大阪仰星、日本航空石川、太田の3校とリーグ戦を戦う。1位になれば準々決勝に進む。北陽台の選抜8強入りはまだない。

 岡崎は手応えを感じている。
「全国大会ではフィジカルの差を感じました。だから、それからウエイトトレの時は流さず、集中してやるようになりました」
 ベンチプレスの最高は85キロから100キロ近くまで数値を上げた。

 横断幕は「鉄になれ」。少数精鋭の部隊は折れない準備を積んできた。群青色のジャージーを熊谷の緑の芝生の上で輝かせたい。

校門の横にあるラグビー石碑。左は74回全国大会準優勝を記念したもの