18チーム体制になるスーパーラグビーに新たに加わるのはどこだろう…。 と、いろんなニュースが駆け巡ったのは2015年ワールドカップの前年だった。
のちにサンウルブズと名付けられる日本のチームか。はたまたシンガポールをベースとするチームか、と。
18番目のチームがどこになるか混沌としていた2014年、シンガポールの通信社記者、パトリック・ジョンストンはラグビーマガジンへの寄稿を、こう締めくくった。
「日本、香港、またはアジアの他の国はスーパーラグビーに加わるとき、SANZAR(スーパーラグビーの運営母体/現SANZAAR)の考え方を見習うといい。自分たちのことを第一に考え、他は二の次という考え方を」
あれから5年あまり。その言葉を思い出すことになった。
3月22日、SANZAARが2021年以降のスーパーラグビーからサンウルブズを除外すると正式に発表した。
スーパーラグビーは15チーム、3カンファレンスに分かれている現フォーマットから、14チームの総当たり戦へと変更される。
SANZAARの決定を受けて、日本側も会見を開いた。出席したのは日本ラグビー協会の坂本典幸専務理事と、ジャパンエスアール代表理事の渡瀬裕司CEO。両者は、SANZAARから出された経済的条件について「受け入れられない」として、その結果、除外されることが決まったと話した。
SANZAAR側が出した条件は、以下の通り。
(1) 2021年以降、14チームの総当たり戦フォーマットにすれば、放映権料としての収入が数億円増える。しかし、サンウルブズが現フォーマットの維持を求めるのなら、その差額を支払ってほしい。
(2) 各チームの移動費に関して、サンウルブズ抜きの14チーム体制でおこなう場合と、現体制維持の場合に生じる差額を払ってほしい。また、自分たちの移動費は自分たちで。
(3) 放映権料の分配に関しては、これまで通り、サンウルブズには無し。
法外とも思えるこの要求を、SANZAAR側は数週間前になって突きつけてきたという。
これに対し、日本側は「受け入れられない」としたわけだ。
ただ、サンウルブズが消滅するかどうかは別の話。少なくとも今年の残り試合は戦うし、契約が残っている2020年まではリーグに参戦する。
渡瀬CEOは、「残りの試合で応援してくれているファンへ恩返ししていきたい」と話し、坂本専務理事は、アジア、パシフィックチームとの連携をとった新しい動きに参戦するかどうかの判断基準として、「ハイパフォーマンス(日本代表強化)に寄与するのであれば」と話した。
ここまでを聞けば、「傲慢な団体に弾き出されたサンウルブズ」と見える。
果たして、本当にそうか。
記者会見でも、疑問の質問が多く出た。
2016年からの18チーム拡張体制への参加チームが正式に決まったのが2014年の秋だったから、この時期に、次のフォーマットが決まるのは分かっていたはずだ。
しかし、サンウルブズがリーグへの残留を実現させるための交渉を積極的にやってきたわけではない。
また、今回突きつけられた条件に関しても受け入れを拒否しただけだ。資金繰りに動いたわけでもなく、SANZAAR側との残留交渉も積極的にはおこなっていない。
放映権の未分配に関しては、そもそも、前回の契約時と変わりない契約内容だ。
SANZAARとは、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチンのジョイントベンチャー。日本は出資金を払っていないのだから、放映権料を受け取る権利はない。それを受け入れての前回契約だった。
会見で、「出資してでも(リーグ残留の)継続意思はなかったのか」の問いに、「(先方から)そういう働きかけもなかった」と坂本専務理事は答えた。
それは、ある意味当然だろう。SANZAARは出資したいと言えば誰でも喜んで受け入れるわけではない。日本を正式にビジネスパートナーとして受け入れるには、サンウルブズが近い将来、上位に進出すると現時点で感じさせないといけなかったが、それはできなかった。
またサンウルブズは、この3年間のうちに、経済面でもSANZAARが思っていたようなものをもたらせなかったのだろう。
2016年にチーム拡張に踏み切ったのは、新規チーム加入による変化を期待したからだ。SANZAARは増えたコストについて、新しいスポンサーシップやテレビ収入で増えたコストを回収することを考えたが、期待外れだった。
それがサンウルブズの力不足のせいかと言えばそうではないが、このままでは変化は見られないと判断された。
今回の判断においては、南アフリカが強くサンウルブズ除外を主張したと言われる。
その背景には、2023年のワールドカップ開催地決定投票の際、日本ラグビー協会が南アフリカでなく、フランスに投票したことも無関係ではないとされる。
しかし、実際に南アフリカ勢の移動に関する時間と金額の負担は大きかった。
スーパーラグビーでは遠征費用に関し、アウェー戦を戦うための渡航費はSANZAAR持ち。各チームは、ホームゲーム開催時の運営費を自分たちで払うシステムだ。スタジアムの使用料、施設設営やスタッフの賃金など、試合開催に必要な経費。これに、ホームゲームに向けての自チームの活動費用(合宿など)、選手たちのサラリーを加えたものがチームの運営費だ。
この点においても、サンウルブズはSANZAARに属していないから、支出は自分たちに関するものだけでよかった。
他にはリーグ全体の諸経費もかかっているのだから、そこにも不満を抱えていたのかもしれない。
サンウルブズのスーパーラグビー加入は、ある意味、試された期間だった。
どれだけのものを自分たちにもたらしてくれるのか、と。
その結果、「まだいてもいいよ」の条件が、10億円とも言われる経済的要求だった。
サンウルブズ側は日本代表の強化に関して、これからもスーパーラグビーで戦うことがベストであり、新たに生まれたファン層を絶対に逃したくないなら、金額交渉でも、この先の発展プラン提示でも、もっと積極的にすべきだった。
この結末では、今秋のワールドカップまでの強化に活用しただけになってしまった。