プロコーチとして刺激的な3週間だった。
これまでバックローとして16年、コーチとして1年。
今年で近鉄ライナーズ18年目になる“ミスター近鉄”、佐藤幹夫アシスタントコーチは、2月中旬からオーストラリアにコーチ留学をしていた。
小学2年から横須賀RSでラグビーを始め、法政二高、法政大と進んで2002年に近鉄ライナーズ入り。
レスリング経験を活かしたタックル&リロード、フェイントからの巧みなオフロードパス――玄人をうならせる技を持つ個性派バックローとして16シーズンを戦い、2017年度に現役引退。
昨年度からアシスタントコーチとして、近鉄ライナーズの強化に携わっている。
渡豪のきっかけは昨シーズンのこと。
スポットコーチとして来日したレベルズのケビン・フット ディフェンスコーチが印象的だった。
「ケビンのコーチングスタイルがとても勉強になりました。練習の雰囲気作り、テンポもすごく良かったです」
近鉄のニック・スタイルズFWコーチとの縁でやってきたフット コーチは、時に笑いを交えながら選手を感化した。
ディフェンスは佐藤コーチの専門領域のひとつ。学びがあると直感した。
「別れぎわに『今度レベルズにおいでよ』と言ってくれたので、『本当に行っていいですか』と。ニックと3人のグループメールを作って、受け入れを整えてもらいました」
2月12日から約3週間、自費でのコーチ留学を決めた。
最初の4日間はスタイルズ コーチのいるブリスベンに滞在。13人制ラグビーのNRL強豪、ブリスベン・ブロンコスを見学するなどした。
そこから約2週間はスーパーラグビーのレベルズの本拠地、メルボルンに滞在。
アパートを借りて生活しながら、フット コーチのほか、レベルズのコーチ陣の指導、チーム作りなどを吸収した。
「彼らのコーチングに対する姿勢、雰囲気作りの方法などを肌で感じられたことは素晴らしかったです。日本とはここが同じ、ここが違う、という勉強にもなりました」
現役を引退したばかりだから、まだ身体は動く。レベルズの練習にも参加して汗を流した。
そんなレベルズは今季好調だ。
生観戦した第3節ハイランダーズ戦に勝利。ブランビーズにも勝って開幕3連勝とし、第4節終了時でオーストラリア・カンファレンスの首位に立った。
「今年の成績に表れているとおり、レベルズはチーム自体に活気、勢いがありました。バックスは9番から15番まで全員が良い。フォワードもケガから復帰したばかりだったアダム・コールマンなど、良い選手もいてまとまっています」
充実したコーチ留学は無事に予定を終えた。
しかし旅の最後は慌ただしかった。
3月2日土曜日に帰国予定だったが、メルボルン発の飛行機が遅れ、シドニー発の乗り継ぎ便に間に合わなくなった。
しかし日曜日には日本にいなければならなかった。小学6年になる長男の“小学校最後の試合”が、週末に奈良で行われるからだった。
「乗り継ぎ便に間に合わなくて、関空(関西国際空港)に行くはずが『12時間後の羽田行きに乗って』と言われて。それで羽田に行って、そこから関空に行って。着いたらそのまま直行バスで天理へ行って、そこからまたタクシーに乗って親里(ラグビー場)に行って――。試合の後半だけなんとか観れました(笑)」
きっと忘れられないコーチ留学になったはずだ。今回の学びを未来に活かしていきたい。
6月22日に開幕するトップリーグのカップ戦には、トップリーグ16チームに加え、トップチャレンジリーグの近鉄ライナーズなど8チームが参戦する。
「6月に始まるカップ戦がひとつのターゲットです」
一筋のキャリアを貫いた、ライナーズへの恩返しが始まっている。