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「そっぽを向いた」レッズを倒す! ベン・ガンター、サンウルブズ初陣までのドラマ。

2019.03.15

スーパーラグビーデビューとなるレッズ戦へ向け練習するベン・ガンター(撮影:井田新輔)

 サイドを刈り上げ、長めのトップを結わいた独特のヘアスタイル。近世の武家社会を意識したのかと問われ、ベン・ガンターは笑った。

「サムライの文化をリスペクトしています。礼儀、作法、国のためにという考えに感銘を受けています。その精神を日本でラグビーをする時も大事にしています。誠実にすべてを出しきてって戦う…と。ただ髪型は、狙ってやったのではなくたまたまこうなっただけです。評判がよかったらこのまま。そうでなかったら切るかもしれません」

 3月16日、東京・秩父宮ラグビー場。オーストラリア出身でタイ国籍を持つベン・ガンターが、国際リーグのスーパーラグビーでデビューを果たす。新加入した日本のサンウルブズの先発FLとして、かつて入団を熱望していたレッズに挑む。

「(対戦相手には)知り合いや、高校時代に一緒に戦った選手もいます。どんな時もデビュー戦は特別ですが、今回のデビュー戦はより特別です」

 身長189センチ、体重118キロの21歳は出生時、「11ポンド(4.99キロ)」とふくよかだった。

 母の出生地であるタイで生まれたが、「母、タイの背景に関しては一切、記憶がありません」。建設業に携わり出張の多かった父、おもに面倒を見てくれた養父母とともに、オーストラリアはニューサウスウェールズ州のガナダーで育った。養父の友人が営む牧場などで木こりや藁運びを手伝ううち、身体を絞った。

 地元のガナダーブルドックスで13人制のラグビーリーグと出会い、14歳から同じくガナダーレッドデビルズで15人制のラグビーユニオンを開始。クイーンズランドのブリスベンボーイズ高入りして近隣のレッズ入りを目指した。

 しかし……。

「自分のところへそのチャンスは転がって来なかった。同じポジションにはいい選手も多く、埋もれてしまっていたんです」

 競技生活を続けられることとなったのは、日本のパナソニックにスカウトされたからだ。これがなければ、高校卒業後はオーストラリア軍に入っていた。

 参加する日本のトップリーグには、アジア枠がある。アジア諸国のパスポートを持つ選手は、所定の外国人枠以外の立ち位置で試合に出られるのだ。

 当初、パナソニックからは国内の私立大入りを勧められたというガンターだが、来日直前にタイ国籍を持っている旨を告げるや早期のパナソニック入りを叶えた。2016年10月30日、19歳6日で当時のトップリーグ最年少出場を記録した。

 速さと強さを長所に頭角を現し、キャプテンの布巻峻介に「チームにエナジーを与えてくれる。若いガンターをサポートしようという(周りの)動きが、チームとしてのいい動きにもなる」と喜ばれた。さらに、かつてオーストラリア代表を指揮したロビー・ディーンズ監督には、「ラグビーはシンプルなことをきちんとやりきるスポーツだ」「自分を信じ、思い切ってやれ」と発破をかけられた。

「レッズに見てもらえなかったところもあり、がっくりと自信喪失していたところもありました。しかしロビーさんにラグビー熱、エンジョイする気持ちを改めて呼び起こしてもらいました」

 日本ラグビー界で成長できた思いがあるから、ブレイク後にパナソニックの相馬朋和ヘッドコーチから「もしレッズからオファーがあったらどうする?」と聞かれても「行かない!」と応じた。サンウルブズ入り後に明かす。

「日本への忠誠心が芽生えていました。去年、実際にオーストラリアのスーパーラグビーのクラブからオファーをもらいました。ただ、それまでそっぽを向いていたのに、こうして選手として活躍できるようになってから声をかけられても……。いまさら、オーストラリアへ戻るわけにはいかない」

 初来日は高校時代。福岡でのサニックスワールドユースという国際大会に出るかたわら、砂風呂を体験している。最近ではパナソニックの同僚である藤田慶和と大相撲を観戦するなど、日本文化に強い興味を持つ。それらと地続きにつながっているのが、「サムライ」への憧れだ。

 今季のサンウルブズ入りに先立ち、日本代表候補にあたるラグビーワールドカップトレーニングスコッドにも名を連ねたガンター。国内連続居住3年をクリアして代表資格を得られるのは、今年7月の見込みだ。

 当の本人は「資格を得たからといってすぐに(代表戦に)出られると思っているわけではない」と慎重だが、もし今秋のワールドカップ日本大会へ出られたら「光栄です」とも続ける。

「日本にそういう形で恩返しができることに、喜びを感じています。ただそのためにはまず、その立場(代表メンバー)にならなくてはいけません。もし自分が代表スコッドから入れなかったとしても、代表強化に貢献できるのであればそれはそれでやりがいがあります」

 今度のレッズ戦へは、「家族からも祝福してもらっています。チーム、家族の誇りになれるように頑張りたい。守備ではレッズの勢いを止め、攻撃ではサンウルブズの勢いを出す」と興奮する。オーストラリアの牧場で鍛えた日本通のアスリートが、存在感を示す。