◾️一番避けなければならないのは、「取られて、取られて、さらに取られる」パターン。
ため息に覆われた惨敗、胸を打つ健闘、そして敵地での歴史的勝利。
スーパーラグビー参戦4季目、ラグビーワールドカップイヤーにおけるサンウルブズの起伏に富んだ戦いぶりは、ジャパンが海外列強との決戦を制するためのさまざまな示唆に満ちている。
いよいよ半年後に迫ったラグビーワールドカップへの指標の意を込めて、浮かび上がった収穫と課題を整理してみたい。
▼トレーニングマッチの重要性
今季最初の実戦となった開幕節のシャークス戦と2戦目のワラターズ戦では、プレーのキレや精度に雲泥の差があった。
過去3年に比べ準備期間が長く、メルボルン合宿で実戦形式のトレーニングをこなしたとはいえ、練習と本物の試合は強度も緊張感もまったく違う。
CTBマイケル・リトルはワラターズ戦後、「初戦はプレッシャーを受ける中での連携やゲームフィットネスに問題があったが、1試合戦ったことで大幅に改善された」と語っている。
過去のジャパンを振り返っても、シーズンの初戦はチグハグなプレーに終始し、2戦目に一変するというケースが多々あった。
これは、フィジカルで圧倒するタイプのチームではないからこそ、練習とは段違いの圧力の中で本来の力を発揮するまでに時間がかかるためだと考える。
今回のワールドカップ前には、南アフリカとテストマッチを戦うことが決まった。世界でも一二を争うコンタクト力を誇る大型チームに体を当てておけば、その後の試合で相手の激しいファイトに戸惑う心配はない。無論ケガの不安はつきまとうが、 「ケガがイヤと思うならやらないほうがいい」(リーチ マイケル)のがラグビーだ。
日本特有の蒸し暑さにあえぐスプリングボクスから2つ目の白星を挙げ、最高のムードで開幕戦を迎える——とポジティブに考えるべきだろう。
▼セットプレー
シャークス戦でリズムに乗れなかった最大の要因は、スクラムの崩壊だ。あと一歩まで追い詰めながら勝ち切れなかった第4節ブルーズ戦もセットピースは劣勢だった。攻撃の起点が安定しなければ準備したアタックを仕掛けられず、ゲームプランは瓦解する。
ワラターズ戦、チーフス戦では右PRに入った山下裕史の奮闘もあって、スクラムのマイボールキープ率は100パーセント(ワラターズ戦は相手ボール奪取が2回!)。それぞれ善戦と快勝の原動力となったのは明白だった。
せっかく得た敵陣での自軍投入のスクラムでボールを失えば、どうしたって流れはぶつ切れになる。反対に、攻め込まれた場面で相手ボールのスクラムを奪えば、心理的に大きく勢いづく。これはラインアウトもしかり。
特にスクラムは、大きさや重さだけでは優劣が決しない奥深さがある。日本の強みを最大限に生かし、強豪国に対しても安定にとどまらず押し込んで圧力をかけられるような独自のスクラムを構築してほしい。
▼続けて失点しない
格上がセーフティーリードを得て余裕を持って攻める展開になると、挑戦する側がひっくり返すのは難しい。
チーフス戦のように先制点から大きく先行するのが理想だが、ジャパンがティア1国との試合であの流れに持ち込むのは至難の業だろう。
ワンチャンスで逆転できる圏内を維持し、相手が疲労と焦りで動けなくなる終盤に逆転する——まさに2015年ワールドカップでの南アフリカ戦のような展開こそが、ジャパンの栄光へのストーリーだ。
不思議なもので、相手にトライされても、次にこちらがPGでも返せば、案外スコアは開かない。7点取られても3点返し、また7点取られても3点返せば、14-6。もし相手がコンバージョンを1本外せば12-6で、1トライ1ゴールで追いつく点差だ。
一番避けなければならないのは、「取られて、取られて、さらに取られる」パターン。「取られて、取って」を繰り返していれば、たいていは終盤勝負に持ち込める。
そのために必要なのが、精度と飛距離を兼ね備えたプレースキッカーと、粘り強いディフェンスだ。
ここまでの4試合を振り返れば明らかなように、どの相手に対してもアタックは確実に通用する。つまり連続失点さえしなければまず接戦には持ち込める。
ワラターズ戦後、HOの坂手淳史はジャパンやサンウルブズがいいゲームをする条件として、「大きなゲインをとられないこと」と言った。敵陣から一発で長い距離を走られてトライを許し、そのショックから続けてトライを奪われる。あるいはトライを取られた直後のキックオフから大きく切り返され、一気にインゴールまで持っていかれる。いずれもよく目にする連続失点の典型だ。
最後に、これら以前の前提として、気迫で相手を上回ることが勝利の条件になるのは言うまでもない。
「今さらそこか」と思われるかもしれないが、激しい身体接触をともなうラグビーにおいて、この部分で引いてしまえば力関係が四分六の相手に勝負はできない。
シャークス戦とワラターズ戦を比べると、選手たちの気持ちの入り方には数プレーでわかるほどの違いがあった。
ただ、この点についてはさほど心配はいらないだろう。自国開催の歴史的なワールドカップ、ホームの圧倒的な大声援を受けて奮い立たないラグビー選手などいないはずだ。