この人が教えるチームらしい試合だった。
ロースコア。粘って粘って、最後に勝機を得る。
今回はハッピーエンドとはいかなかったけれど、3年かけて作ってきたものがしっかり見えた。
創設から短期間で女子ラグビーの強豪クラブとなったPEARLS(三重)。監督を務めてきた記虎敏和氏が、3月3日におこなわれた全国女子ラグビー選手権大会(15人制/小田原・城山陸上競技場)の決勝(会長杯)を最後に指揮官の座を退いた。
PEARLSを主体とした「Blue Peaglets」は日体大ラグビー部女子に敗れるも、スコアは7-8。後半39分にはPG機を得て、決まれば逆転という状況を作った。
退任の理由を「3年間のうちに、自分が目指すところと一致したこともあれば、そうでなかったところもあります。ただ基盤はできたと思うので、このタイミングで退いて後任にバトンタッチすることで、(クラブの)方向性がしっかりと定まるのではないかと考えました」。
指導者人生は終えない。
「グラウンドに立つしか取り柄のない男ですから、機会があれば、どこかで(コーチ生活を)続けたい」と話した。
同監督は1952年4月28日、大阪・枚方市生まれの66歳。
天理大を卒業後、1980年4月から2004年まで啓光学園高校(現・常翔啓光学園)で監督、総監督を務め、全国高校大会(花園)で優勝6回、準優勝3回という輝かしい成績を残した。2001年度から2004年度までは4連覇と無敵だった(2004年度は総監督)。
その後、龍谷大学で監督を8年務め、2016年5月からPEARLSを率いる。太陽生命ウィメンズセブンズシリーズで3度の優勝を手にした。
PEARLSで初めて女子クラブを指導して、多くのことを選手に与える一方で、あらためて学んだこともある。
「みんなラグビーが好きで、まじめに、しっかりと練習をします。好きなことに打ち込む姿勢は、女性も男性も、なんの違いもない。むしろ、言われたことを素直に受け入れ、まじめにやり遂げようとする純粋さは、女性の方が上回っている感じも受けました」
このクラブが急速に成長した理由を、記虎監督は「探究心」と考える。
「自らすすんで取り組む選手を育てたつもりです。受け身でなく、探究心、追求する心を持つ。パールズの選手たちは、それを持っていたので伸びていってくれた」
女子選手には、丁寧に指導するのが大事だった。
「含みを持った伝え方でなく、噛み砕いて説明する。納得すれば自ら動き、求める」
自身もコーチとして成長させてもらった。
この日の試合で引退したベテランのFB伊藤絵美は、試合前の記虎監督の言葉が、チームのメンタルをいつも支えてくれたと明かす。
「それは嬉しい」と穏やかに笑った同監督は、いつも選手たちに伝えていたことを繰り返した。
「チームのため、みんなのために、自分を信じプレーしよう。うまいプレー、凄いプレーでなくていい。これまでやってきたことをコツコツと、基本通りに、正確にやればチームは崩れない。個人が崩れなければチームも崩れない」
最後の試合、目の前で奮闘してくれた教え子たちが愛おしかった。
「自分がイメージするラグビーは、ロースコアのゲーム。勝つことはできませんでしたが、最後にそういった試合をやってくれた。幸せです」
「どこまでもラグビーを追いかけたい」という名伯楽の新たな旅が、また始まる。