東大阪KINDAIクラブは、この4月で本格活動3年目に入る。
運営は近畿大学体育会ラグビー部だ。
この大学は西日本最大の総合教育機関――幼稚園から医学部を含め大学院まである――の中核をなす。先ごろ、6年連続の志願者数1位を確定させた。勢いは止まらない。
その一大組織をベースに、ラグビーの機能化を図る。そして、「One For All All For One」という自他尊重の精神を押し広げ、学園、地域、そして関わる人への貢献を目指す。
活動の中心になる神本健司は褐色のほおを緩ませる。
「この取り組みを多くの方々に知ってもらいながら、結果が伴いだすのはうれしいことですね」
OBでもある41歳は、大学職員としてラグビー部ではディレクターをつとめる。総監督の中島茂を補佐する。
小学部=東大阪KINDAIクラブラグビースクールは、今年2月のヒーローズカップで初優勝した。
このチームの母体は東大阪ラグビースクール。3年ほど話し合いを続け、昨年4月に現在名になった。
チーム名は、すべて頭に「東大阪KINDAIクラブ」がつく。その後に、小学生はラグビースクール、中学生はジュニアラグビー、社会人はall kindai familyと続く。
中学部門はノーサイドジュニアを母体に2年前に改名した。小学校までしかないラグビースクールの受け皿であり、中学の部活との重複活動も認めている。
この3月からリーグ戦「関西ジュニアリーグ」を実施する予定だ。
帝京大新2年生の上山黎哉はここで楕円球を追った。大阪桐蔭で高校日本代表に選ばれた人に強いフランカーだ。
小、中学部はキャンパス内にある人工芝グラウンドが使える。大学のチーフコーチ・松井祥寛や部員らによる最新の指導も希望すれば受けられる。コンタクトバッグなどの用具も申し出があれば使用可能だ。
メリットは多い。
小、中学部の上には、入試という関門があるにせよ、附属高校、そして大学が控える。
社会人のall kindai familyは現在、近畿クラブリーグ最下の三部、カテゴリーCだ。
「いずれはAに上げて、全国クラブ選手権に出られるようにしたいです」
神本は力を込める。
このシニアチームはこれまで、附属中や大学クラブ、医学部チームなどこの学園に籍を置いた人間が対象になっていた。しかし、今後はオープン化される見通しだ。
東大阪KINDAIクラブでひとりの人間のラグビー人生が完結する。
神本の見識は広い。
関西ラグビー協会で大学運営をするリーグ委員会において、所属するAリーグをとりまとめる主担者を任されている。
現役時代は神戸製鋼で主にセンターとして6シーズンプレーした。
他チームや協会関係者と触れ合う中で、大学を軸にしたクラブ化の構想を持つ。
「ワセダクラブがヒントになっていますね」
早稲田大はラグビー部が中心となり、クラブ化が進められ、NPO(特定非営利活動法人)の資格も得た。ラグビースクールはもとより、柔道など20以上のクラブがある。
ワセダクラブとの違いは行政との積極的な関係性だ。学校所在地であり、「ラグビーのまち」をうたう東大阪市とタイアップする。
神本は市長の野田義和に構想を話し、市章の使用許可をもらった。そして、スクールカラーの藍色でエンブレムを作る。
鳩と市の頭文字「ひ」が合わさった市章の左上の羽根部分に梅花の学園章、下にはクラブの頭文字をとった「H.O.K.C」が白で入る。
市の存在はさまざまなアイデアを現実化する上において心強い。
神本に質問をぶつける。
労力がつまった小、中学部門でプレーをしながら、他の高校や大学を選ぶ子供が出てきたら?
「そこのコントロールはできません。ただ、ラグビーは一族スポーツなので、まず接点を持つことがプラスになります」
この競技の特徴は家族や親戚ぐるみ。クラブの存在とよさを知ってもらえればいい。
そこに小さな縄張り意識はない。
ラグビーで手ごたえをつかめば、さらにその先を神本は見据える。
「ぼく個人の勝手な考えですが、その流れを体育会全体に広げられないか。子供たちが、色々なクラブに体験入部して、自分に合うスポーツを自分自身で見つける。そういうことができたらいいな、と思います」
3児の父らしい発言だ。必ずしもラグビーへの固執はない。
近畿大は水泳、アーチェリー、スキーなどはオリンピック、野球や相撲などはプロに多くの人材を輩出している。そのクラブが横のつながりをより強固にし、外界との接点をこれまで以上に増やせば、この教育機関の魅力はさらに上がる。
ただ、神本はこの先の道のりが平坦でないことも知っている。
「財政的なことを含めて、色々な壁があると思います」
まずは周知を徹底させる。その上で大学から本格的な認可を得る。そして、NPO法人化を視野に入れる。
やることは山積みだ。
しかし、やり甲斐はある。
ラグビーを通して、スポーツ、学園、地域、行政を一体化することができれば、関西、いや日本初。そのダイナミックさは普通の人生では、まず味わえない。
(文:鎮 勝也)