ラグビーリパブリック

帝京大の卒業生たちの声。9連覇が残したもの。

2019.03.01

サンウルブズでチームに勢いを与える中村亮土。(撮影/松本かおり)


 2019年1月2日の大学選手権準決勝で、9連覇王者・帝京大は7-29で天理大に敗れ、連覇が止まった。この敗戦を帝京大の卒業生はどう捉えているのか。2019年W杯日本大会へ向けてRWCTS(ラグビーワールドカップトレーニングスコッド)、サンウルブズで活動している卒業生の一部の声を集めた。

 5連覇を達成した2013年度に主将を務めたCTB中村亮土(サントリー)。2019年のサンウルブズでシーズン序盤から活躍中だ。

「勝負の世界なのでいつ負けるか分かりません。この負けが5年後、10年後に『あそこで自分たちが負けておいて良かったね』と言えるように歩んでほしいなと思います」

 7連覇時の主将を務めたHO坂手淳史(パナソニック)。先輩・中村と同じくサンウルブズで序盤戦から戦うハードワーカーだ。

「あの試合に関しては天理大学さんが良かったと思います。僕らが4年生のときの1年生が、4年生になった代だったので、思い入れが強かったです。成長した選手もたくさんいましたし、良いゲームでした」

「4年生はこの経験が生きてくると思います。悔しさをバネに頑張ってほしい。下級生はまた1年間、帝京らしく、泥臭く、良いものを積み上げてチャレンジしてほしいです」

 8連覇時の主力だったSO松田力也(パナソニック)。2019年のサンウルブズでスケールアップ中の24歳だ。

「かぶっていた代の子たちがまだいたので、残念な気持ちもあります。ただ勝つことだけがすべてではないですし、勝ち続けているといつかはそういう日が来るので、結果を踏まえて頑張ってほしいです」

「帝京大学で学んできたことは社会で生きると思います。自信を持って、胸を張って、学んできたことを活かしてほしいと思います」

 2019年2月はRWCTSの一員として活動している姫野和樹(トヨタ自動車)。帝京大で同期だった松田と共にW杯日本大会を目指す若武者だ。

「連覇が途切れたときは、一人のOBとして悔しいという思いはありましたけど、後輩たちが2年間見てないあいだに人としても、プレイヤーとしても、あれだけ成長していたことが嬉しかった。すごくカッコ良かったですね」

「連覇は止まりましたけど、自分たちがやってきたことに疑いを持ってはいけないと思います。連覇を逃したことはたいしたことではない、と言いたいです。帝京大学ラグビー部の価値は『連覇』『強い』というところではなくて、部に根付いている人を成長させる文化とか、温かく指導してくれる監督を始めとする皆さん――そういった人の良さが、帝京大ラグビー部の本当の価値だと思います。もしも自分に息子がいたら、絶対に帝京大学ラグビー部に入らせてあげたい。そこで学ぶことがたくさんあると思います。帝京の文化、価値が大事なのだと思います」


 2月17日から東京・栗田工業グラウンドで始まった「第5回TIDキャンプ」でのことだった。

 ジュニア・ジャパン、U20日本代表を見据えたキャンプで、ユース世代に精通する日本代表の15人制強化副委員長、ユース統括の山神孝志氏が練習を見守っていた。山神氏は近年のユース世代について「世界で十分戦える手応えがあります」と語った。

 どうして日本のユース世代が、世界に迫っているのか。

 その理由として山神氏は、コーチの成長、情報の高度化、そして、帝京大の存在を挙げた。

「ひとつのモデルケースになりましたよね。岩出先生(雅之・帝京大監督)は人格形成を含めて色々されました。連覇するチームに対して、みんなが追いかけました」

 帝京大が大学のレベルを引き上げた面は?

「もちろんあると思います」

 帝京大が負けた大学選手権準決勝の翌日。大阪・東大阪市花園ラグビー場では、第98回全国高校ラグビー大会の準々決勝4試合が行われた。

 花園ラグビー場の正門前で、関西のラグビーファンに、天理大の勝利について尋ねていた。

 学生時代のラグビー仲間だという、初老の男性2人組がいた。天理大のスクラムについて熱く語ったあと、片方の初老男性が言った。

「あの同志社でも3連覇。大学は毎年人が替わるでしょ。帝京はホンマにすごい」

 連覇は途絶えた。しかし帝京大ラグビー部が着ている尊敬という名のジャージはなかなか脱げそうにない。

(文/多羅正崇)

丁寧なファンサービスをおこなう坂手淳史。(撮影/松本かおり)