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【コラム】サンウルブズの、茂野の心意気。

2019.03.01

攻める姿勢を貫き、躍動したサンウルブズSH茂野海人。(撮影/松本かおり)



 サンウルブズの、SH茂野海人の、心意気をみた気がした。

 2019スーパーラグビー、国内開幕を告げるワラターズ戦。前半36分53秒。
 左中間、自陣ハーフウェーラインの手前で相手が反則を犯した。前半も最終盤、誰の足にも乳酸がたまっていたのは明らかだった。一息入れてタッチキックで敵陣に入り、ラインアウトから得点機をうがかうのが、サンウルブズにとって優しい選択だったのかもしれない。

 でも、羅針盤たる茂野の思いは違った。
「自分たちがしんどければ、相手もしんどいから」。ましてやホーム、日本の冬。夏のオーストラリアからやって来たばかりのワラターズは、たとえ代表ぞろいの面々だろうと万全の状態ではなかった。
「パッと全体を見た時、うちの選手が外に余っているのがわかった。(外にいたCTB中村)亮土も手を挙げていた。あ、これは速攻だと」

 素早い仕掛けはSHにとっても苦しい。仕掛けたら最後、パスの行方を追いかけ、密集にいち早く駆け寄り、ボールをさばき続けなければならないのだから。
 茂野は自分に厳しいSHだった。
「チャンスがあれば、アタックのマインドセットでやり続ける。それがサンウルブズのスタイル」

 タップキックから右斜め前に駆けてパス。タッチ際をWTBゲラード・ファンデンヒーファーが疾走。ラック。茂野が今度は左へ。SOヘイデン・パーカー、中村を介してボールを託されたLOトム・ロウがトライラインに達した。
「ああいう状況で、どれだけハードな(厳しい)選択をできるか。それがサンウルブズの強み」。攻めるのが当たり前でしょ。茂野の顔に、そう書いてあった。



 攻撃だけにとどまらない。防御でも密集から密集へと走り回り、水もれをタックルでふさぎ続けた。
「しんどいですよ。しんどいけど、空いたスペースがあればSHがカバーして埋めなくては。もっと、タックルします」
 ピッチを俯瞰して周囲に指示を出すのが、防御時のSHにとって最優先の役割。つまり、システムが機能していれば基本的にコンタクトは少ない。そのSHが積極的なタックルで破綻を食い止めれば、どれだけ味方を助けられることか。この人はわかっている。

 9月開幕のワールドカップに向け、いま、日本代表の本体はコンディション調整に時間を費やしている。サンウルブズでプレーする者たちの立場は、やや微妙にも映る。
 茂野は目の前のことだけに集中している。
「いまはサンウルブズの選手。試合ごとに経験値を高められる。いいプレーをすれば、自然と、いい結果につながると思う」

 この一戦の2日後。代表本体の感想を知りたくて練習を訪ねた。サンウルブズが演じた攻め手はすなわちジャパンがめざすそれなのだと、多くの選手が口をそろえた。
 同じSHの流大は「チームを引っ張っている」と茂野の仕掛けをリスペクト。そして、続けた。
「ただ、誰も結果に満足していないというのがすごく伝わってきた。僕も昨季、サンウルブズを経験して、ああいうぎりぎりの試合を勝てるか勝てないか、が重要なのだと実感したので」

 善戦を善戦に終わらせない心意気。いいじゃないか。自分に厳しく。厳しい時ほど厳しい選択を。
 そうしなければラグビーでは勝てない。
 そうしなければ、日本のラグビーは勝てない。

【筆者プロフィール】
中川文如(なかがわ ふみゆき)
朝日新聞記者。1975年生まれ。スクール☆ウォーズや雪の早明戦に憧れて高校でラグビー部に入ったが、あまりに下手すぎて大学では同好会へ。この7年間でBKすべてのポジションを経験した。朝日新聞入社後は2007年ワールドカップの現地取材などを経て、2018年、ほぼ10年ぶりにラグビー担当に復帰。ツイッター(@nakagawafumi)、ウェブサイト(https://www.asahi.com/sports/rugby/worldcup/)で発信中。好きな選手は元アイルランド代表のCTBブライアン・オドリスコル。間合いで相手を外すプレーがたまらなかった。