ラグビーリパブリック

神戸製鋼で成長。ジュニア・ジャパンの日下太平は、スペースへまっすぐ走る。

2019.02.27

TIDキャンプで充実の表情を見せていた日下太平(撮影:向 風見也)

 2月19日の午前中。東京・栗田工業グラウンドの脇で、日下太平が記者に呼び止められる。「あ、大…丈…夫、です」。どこか、遠くを見るような顔つきだった。

 日本の有望な若手ラグビー選手が集まる、TIDキャンプの練習後のことだ。17日から4日間おこなわれたこの合宿では、3月に活動するジュニア・ジャパン、翌年度に動く20歳以下(U20)日本代表のセレクションがなされた。

 日下は前年度のTIDにも呼ばれたが、20代前半の選手を交えたジュニア・ジャパンではメンバー入りこそすれ試合出場はなし。ワールドラグビーU20チャンピオンシップに挑むU20日本代表には、スコッドにも加われなかった。今季は、両陣営での主力入りを目指す。

「今年はチームを引っ張っていけるようなプレーをして、大会に出られるように頑張りたいです」

 話の前に間を置いた理由は、すぐに明らかとなった。

 やり取りを終えてお辞儀をした日下は、いったんグラウンド併設のクラブハウスへ戻る。いくつかのボールや、目印のためのポールを持って出てきた。本当は、全体練習の直後に個人練習を始めるつもりだったのだ。

 ひとりで芝に出ると、防御の裏へ転がすイメージで何度もゴロキックを放つ。近くのタッチラインの手前に2本のポールを立て、そのあたりをめがけていた。

 最後は、帯同するトレーナーに「切りのいいところで…」と声をかけられた。視察中だった国内トップリーグのチーム関係者に、こう褒められた。

「誰かに止められて終わらせるくらいがちょうどいいです。周りの選手がこれを見て『自分も…』となるかどうかで、(チームの成長度合いなどが)変わっていくでしょうね」

 神奈川の関東学院六浦中を卒業した2015年春、ニュージーランドのクライストチャーチボーイズ高へ留学。体重を20キロ以上も増やし、パワフルになった。さらに2018年からは、新たな環境下で成長を加速させた。

 今季新加入した神戸製鋼では、クラブにとって15季ぶりのトップリーグ制覇を経験。日下はカップ戦1試合のみの出場に終わったが、ウェイン・スミス新総監督のもとで向上心に火をつけた。

 同僚には、同じ高校の18学年先輩でニュージーランド代表112キャップ(代表戦出場数)を誇るダン・カーターがいた。最良の手本が繰り返し伝えていたのは、「スペースを見つけて、まっすぐ走れ」という教え。簡潔なビジョンを持ち続けた青年は、徐々に素早く「スペース」を見つけられるようになった。

「ダン・カーターが同じチームに。最初は夢のような感覚でしたけど、話してみたらいい人で、自分がラグビーで困った時は何でも(質問に)答えてくれました。アタックの時の、ディフェンスとの間合いの取り方を学びました。『スペースを見つけて、まっすぐ走れ』。それは神戸製鋼が(チームとして)意識していたことでもあり、カーターも言っていたこと。前までは『(スペースにまっすぐ)走った方がいいんだろうな』という感じでしたが、いまは『(スペースにまっすぐ)走らないとトライが獲れない』くらいに思っています」

 自主練習が習慣化したのも、神戸製鋼の雰囲気に影響を受けたからだ。「皆、自主的にやっている。それで『何か、やりたい』と」。勤勉な名手の集うクラブになじんだ結果、TIDキャンプの試合形式セッションでも存在感を示した。本職のインサイドCTBに入り、タックルした後の起き上がりの速度などで光る。

「本当にいいタイミングで神戸製鋼に入れました。先輩方、コーチに優しく接してもらえる、素晴らしい環境でした。フィジカルは(試合や練習での)外国人選手との対戦で鍛えられました。神戸製鋼で身に付けてきたスキルを(世界でも)活かしたいです」

 2月27日、今季のジュニア・ジャパンへの選出が発表された。3月8日からは、フィジー・スバでのパシフィック・チャレンジに参戦する。トップリーグの公式サイト上では「身長182センチ、体重95キロ」とサイズにも恵まれた19歳。爪痕を残せるか。

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