ラグビーの聖地は駅も熱いで。
近鉄、サントリー、コカ・コーラというライバル3チームの自販機がぐるりとひとかたまりや。
呉越同舟も関係なしやで、しかし。
近鉄東花園駅の下り線(大阪難波行き)ホーム上。中央付近やね。
それぞれチームカラーの紺×エンジ、黄、赤にラッピングされている。チームマスコットのトライナー君、サンゴリアス君、スパーキーも鎮座ましましてるで。
誰が仕掛けはったん?
小栁元(こやなぎ・はじめ)はんが手を挙げはった。
「ラグビー場のある駅ですから、盛り上げにひと役買えればいいなあ、と考えました」
管理をする近鉄リテーリングのマネージャーは、今ではライナーズと呼ばれるようになったラグビー部のOBでもある。
サントリーもコカ・コーラもラグビーでは敵ですやんか、お茶もジュースもこっちだけ売れたらよろしいやん、せやのに一緒?
「はい。ラグビー的には勝ち負けがありますが、商売では、我々はメーカーさんから売り上げをいただいているので、売れてもらった方がよいのです」
58歳の元ウイングは笑うで。
駅にメーカーが自販機を設置する場合は、まず初期の設置費用がかかる。それに月々の賃料、その上で売り上げの何パーセントかをおさめる。
それでも、もうかるとはいえ、楕円球の対戦相手を持ってくるとは太っ腹やなあ。
リテーリングや鉄道を傘下におさめる近鉄グループホールディングスは、飲料水メーカーを持ってへん。せやから、扱っているのはポッカサッポロの商品や。この会社は昇降格に関係なくライナーズのスポンサーを続けてくれている。ありがたいこっちゃな。
いつからこの自販機はありまんの?
「2015年の春からですね。駅の改良工事で高架になって置かれました」
ああ、それまで下を走っていた電車が上になったなあ。その時からか。
当時、小栁はんが企画を立て、2社に打診したところ、二つ返事やったとか。
サントリーは部署的には直接関係ないOBの尾崎章はんも協力した。プロップとして日本代表キャップ3を持っている。
さすがトップリーグ優勝5回の名門。行く時は一気に行くでえ。
小栁はんは設置にあたって、鉄道と交渉。メーカー側に有利な条件を引き出さはった。それがラッピングやね。
これまで、駅のホームに置く自販機は白色のみやった。運転士の視界をごちゃつかせず、安全運行の支障をなくすためやな。
せやから、おのおののカンパニーカラーは認めず、白に塗り直してもらっていた。
「でもね、話を持っていったら、『おもしろいやないですか。やりましょう』と言ってもらえました。ありがたかったですね」
特別許可、もらいました。
なんか、鉄道会社ってガチガチのイメージがあるけど、最近はそうでもないんやね。
実は、西隣の河内花園駅の下り線ホームにも近鉄とサントリーのラッピング自販機が並んでいる。
なんで、コカ・コーラはおませんの?
「既得権の保護ですね。河内花園には駅の改良工事の前からサントリーさんが入っていました。東花園は自販機を置いていなかった。だから、工事後に新規参入ができたのです」
古いお得意さんはちゃんと守りはる。
2駅とも下り線にラッピング自販機を置いているのも訳がある。
日中は大阪市内に向かう乗客が多く、彼らは飲み物を買って乗り込む割合が高いなどを計算した上でのことや。
ふーん、何でも理由があるんやね。
ところで、3チームの自販機の売り上げはどうですのん?
「おかげさまで、年間を通してそこそこいいです」
関西人が「そこそこ」や「ぼちぼち」を使う時はうまく行ってるんや。うっひっひ。
「2つ目を置いたのも、そういう理由です」
東花園駅の改札を出た右にも1セットを置いた。ここは3台が横並びやね。
しかし、自販機はともかく、ラグビーではサントリーのひとり勝ちやがな。
新しいシーズン、近鉄とコカ・コーラは二部のトップチャレンジで戦う。
「近鉄は、柱になる選手を育てて、質の高い外国人を連れてきてほしい。強くなって、また上がってほしいですね」
小栁さんはOBのひとりとして、もちろんのことトップリーグ復帰を望んでいる。
まあ、ともあれ「ラグビーは仲間づくり」を地で行った自販機群。しっかりと相手をリスペクトしてんで。
みんな、花園に行くときには、ホームか改札から飲みもんを買って行ったってな。
他にひいきチームがあるんやったら、この3つの中で好きなとこでええわ。
ラグビー界の共存共栄のため、たのんまっせー。