赤道直下の国では崩壊したスクラムが、まだ寒い東京では相手を押し込んだ。
2月16日、シンガポールで迎えた開幕戦でシャークスに大敗したサンウルブズが、翌週、秩父宮ラグビー場でおこなわれたワラターズ戦では勝利を手にしかけた。
10-45から30-31へ。
相手が違うとはいえ、試合内容が劇的に改善されたのはスクラムでの奮闘がもっとも大きな理由だったか。
変化の中心にいたのはPR山下裕史だ。
スクラムで強烈なプッシュを見せたほか、相手ボールをターンオーバーし、11回のタックル中10回に成功。WTBで2トライを奪ったゲラード・ファンデンヒーファーとともに、スーパーラグビー第2週の『チーム・オブ・ザ・ウィーク』に選ばれる活躍だった。
シャークス戦では途中からピッチに立った男は、ワラターズ戦では3番を背負って試合のスタートからスクラムで健闘した。
2015年のワールドカップも経験し、日本代表キャップ51。2016年にはチーフスでもプレー(8試合出場)した33歳のベテランは、積み重ねてきたものを自分だけでなく、FW全体のパフォーマンスに活かした。
付け焼き刃では必ず綻びが出てしまうスクラム。
だからベテランは、日常の練習からFWの選手たちと密に意見を交わす。
183センチ、122キロと堂々の体躯を誇るタイトヘッドPRは、ワラターズ戦を終えて「自分の役割は果たせたかな」と話し、この日に向けての準備について振り返った。
スカウティング情報をもとに、相手のことを頭に入れて戦った。しかし、それ以上に重要視したのは自分たちのやるべきことだ。
「2番(HO)、5番(LO)など、直接自分と触れ合う選手と、よりコミュニケーションをとりました」
開幕戦での反省をもとに、準備を重ねた1週間。「週のあたまから始めて、今日がいちばん良かった」と手応えがあった。成果が出たことが嬉しい。
市原(千葉)でのプレシーズンキャンプが始まった頃から山下が口にしていたのが、「ジャパンのスクラムを忘れないように」ということだ。
サンウルブズにはマーティー・ヴィール スクラムコーチがいる。その指導を受けながらも、最終的にはサクラのジャージーを着て組むときのことをイメージし、それを周囲にも伝えてきた。
数週間後に多くのジャパン組が加わったときに戸惑わないようにするため。そして、ワールドカップで成功するためだ。
例えば、5番に入ったトム・ロウにもいろいろ注文を出した。
「(自分と)バインドするとき、(ロウは)うしろに引っ張るようにしていました。それではこちらは組みにくい。そこは改善してもらいました。それができる(ヘル)ウヴェに、教えてやってくれと頼みました」
ワラターズ戦がスーパーラグビーでのデビュー戦だったロウは、「ヤンブーがスクラムの練習でリーダーになってくれてありがたかった」と話した。おかげで、自分の仕事が明確になった。
専門コーチがいる中で、サンウルブズ流とジャパン流のバランスを取るスクラムリーダーは、「外国人選手の一人ひとりのパワーはやはり凄い。それを8人が一体となって組むやり方の中で、より有効に活かしていけたら」と話す。
第3週は、古巣のチーフスと敵地で戦う。かつて応援してくれた人たちが大勢いるハミルトン(NZ)でも暴れ、今度こそチームの今季初勝利に貢献したい。