念願の大舞台を、笑顔で終えた。
「やっと、やっとですよ!」
広島・庄原市のタグラグビーチーム「庄原ワイルドボアーズ」の岸源己(きし・もとき)監督は、表彰式後も興奮していた。
「サントリーカップはずっと憧れの大会でした。去年は中国ブロック大会で3位だったので来れなかったんです。広島県勢としては初出場です」
広島県北東部の庄原市から、会場がある東京都調布市へ。最後はトーナメント初勝利で締めくくった。
全国13ブロックを勝ち抜いた24チームが参加する小学生タグラグビーの最高峰大会、「サントリーカップ 第15回全国小学生タグラグビー選手権大会」の決勝大会が、2月16日、17日の両日、東京・調布市のアミノバイタルフィールドで行われた。
大会規模や情熱は、まさに“小学生タグラグビーの花園”だ。
しかしサントリーカップは競技性を追求したナンバーワン決定戦ではない。表彰式でも挨拶に立った日本協会の山本巧理事はこう強調する。
「試合が終わったらノーサイド、レフリーを尊重するといったラグビー独特の考え方を体系化したのがこの大会で、勝ち負けが目的ではない、という発想でやっています。勝利した感動はあると思いますし、勝利の価値も認めますけれども、その後に何が残るかということが実は大切です。勝ち負けを通じて何を学ぶか、ということが大事だと思っています」
大会2日目の決勝トーナメントでカップ優勝を果たし、大会連覇を達成したのは東京ブロックの「七国スピリッツ」。
今年は10代目のチームで、歴代OB・OGが積極的に指導にあたる強豪だが、そんな王者も勝利が最優先ではなく、チーム関係者は「タグラグビー『を』学ぶのではなく、タグラグビー『で』なにを学ぶかというところで、まずは挨拶からです」と話した。
中国ブロックから出場した「庄原ワイルドボアーズ」の岸源己監督も、サントリーカップの趣旨を体現するようなチームだ。
「やっぱり『楽しんでやるのが一番』『とにかく気持ちの良いプレーをしよう』と言ってやってきました。このプレーはここまでなら反則じゃない、とか、そういうこともあるんでしょうが、『そんなことは考えないようにしよう』『自分のプレーをやろう』と言い続けてきました」
岸監督は広島・庄原格致高でプレーし、25歳までクラブチームでロックだったラガーマン。
現在高校生の娘さんが小学生の時にタグラグビーチームの創設に携わり、サントリーカップの第8回大会に初出場。
建設会社の会社員として働きながら指導を続け、ついに今年度のサントリーカップに広島県勢として初出場。
宿泊先のホテルでは、知人を介して知り合って十数年来の元日本代表主将、菊谷崇氏の激励を受けた。
庄原ワイルドボアーズは、大会1日目のプール戦を2勝1敗で2位通過。
大会2日目のボウルトーナメントでは初戦に敗れたが、フレンドリーマッチで、中国ブロック大会で敗れた岡山市立高島小学校「グリーンボンバーズ」に勝った。
そんな庄原ワイルドボアーズは、表彰式で栄誉を受けた。
元日本代表でタグラグビーの発展に貢献した石塚氏にちなんだ「石塚賞」を受賞。
気持ちの良い挨拶や態度、フェアプレーなどが素晴らしかったチームに毎回与えられる栄誉だ。
岸監督に子どもたちへの指導について尋ねた。石塚賞の受賞が自然と腑に落ちた。
「ボールキャリアの背中に目はないから、後ろから絶対に声を掛けないけん。自分の位置と、どう放ってほしいかを仲間に伝えんとボールはつながらん、どんなに口下手な人間でも仲間に声を掛けないけん――そういうスポーツだと子ども達に伝えています」
低学年の頃は時に喧嘩もある。そういう時は“ふわふわ言葉”が大事だ。
「低学年の頃は喧嘩もするんですよ。そうしたら、チクチク言葉とふわふわ言葉があるんじゃ、と言い聞かすんです。ふわふわ言葉は『今のパス良かった、でももうちょっと遠くに放ってくれ、そうしたら立っとったけえ』とか――相手が『つぎ頑張ろう』という言葉を考えて出そう、と言うんです。そうすると子ども達は『わかった!』と言って、ボールがバーッと前に進み出すんですよ!」
そこまで言うと、岸監督はしみじみとこう呟いた。最高ですよね、少年スポーツ。
岸監督は庄原市ラグビー協会に関わり、タグラグビーの普及・推進に努めている。
ラグビーフットボールの精神、そしてふわふわ言葉を身につけたい子どもたちは、一度庄原ワイルドボアーズを体験してみるとよいかもしれない。
(文/多羅正崇)