キャプテン翼みたいなキャプテンをめざしているんだな、この人は。決意表明を聞いていて、そう感じた。
ピンチな時ほど、みんなから頼られる。どんな期待にも、必ず応える。そんなキャプテンをめざしているんだな、と。
早大の新主将がSH齋藤直人に決まった。
納会にあたる「予餞会」が2月10日に開かれ、公の場で指名された。
5年ぶりに年越しを果たし、でも10年ぶりの大学日本一、早大流に言えば「荒ぶる」獲得はならなかった4年生の代表、背番号20のFLだった前主将・佐藤真吾がマイクの前に立つ。
いつも通りのちょっと早口で、ちょっと前のめりな語り口で後輩たちに託した。
「リザーブだった僕も含めて今季の4年生は先発が少なかった。だからこそ、直人たちの代は、誰かの思いを背負って戦う意味を、どの代より理解してくれている。勝てると信じています」
齋藤がマイクを受けた。
「何事にもチーム一丸となって取り組む。4年生が築いてくれた文化を継承し、荒ぶる奪回に挑みます」
部歌「北風」をリードして合唱した後。さっそくメディアに囲まれ、齋藤はちょっとだけたどたどしく、でも力に満ちた言葉を連ねた。
「僕、しゃべるのは苦手なんです。だからって、行動で示すだけのキャプテンにはなりたくない。自分の中にあるラグビーへの熱さを、行動で示せる自信はある。それを言葉でも伝えられるキャプテンになりたい」
運動量、スピード、技術。SHに必要な要素をあまねく備えたそのプレーに言及する必要は、いまさらない。相良南海夫監督が就任への経緯を説明してくれた。
「部員の投票は、ほぼ満票。でもジャパン入りの可能性もあるので、もしかしたら重荷なるかもしれない。『大丈夫か?』って聞いたら『やります』と」
本人の覚悟はこうだった。
「責任が伴う立場。信頼していただけるのなら、やりたかった。自分自身の成長にもつながる。悩みはしなかった」
対抗戦で8年ぶりに優勝したものの、帝京大には惨敗。迎えた全国大学選手権、対抗戦で勝っていた明大に準決勝で雪辱された。
勝って負けて試合の細部にレビューを重ねた1年。組織づくり、雰囲気づくりという俯瞰的な視点からも齋藤は顧みていた。
「真吾さんたちがつくってくれたチームはすごく仲が良かった。ただ、同じことを繰り返しても優勝はできない。選手同士でもっと競い合って、腹をくくって話し合って、本当の意味での競争を経て、まとまるチームをつくりたい。みんな、目的は同じ。厳しく言い合って関係が悪くなったりはしないはず」
FL幸重天に副将を頼んだ。神奈川・桐蔭学園高で主将を担った際の副将は、いまも同僚のFL柴田徹。もう一度、彼に頼もうかとも頭をよぎったけれど、「徹は役職がなくてもリーダーシップを発揮してくれるから」と考えを変えた。
「チーム全体を見渡したくて。徹も僕も1年生の頃から試合に出させてもらって、正直、下のチームの気持ちをわからない部分がある。幸重は下のチームを知っている。上と下でモチベーションに差があったら絶対に勝てないから」
主将の重荷を背負うと、良くも悪くもチーム優先、肝心のプレーが鈍ってしまう主将がいる。この悪循環には陥るまいとの意欲もあふれる。
例えば自慢のフィットネス。「まだまだ伸ばせる。フィットネスって、結局、最後は自分との戦い。みんなに示していきたい」。
昨年秋には学生で唯一、日本代表候補に選ばれた。いまは外れているが、むしろ、渇望は膨らんでいる。
「ワールドカップに出たい気持ち、あります。早稲田での一日一日を大事にして、いつ呼ばれても力を発揮できるように準備したい」
100人を超える部員全員を引っ張り上げ、束ねる。同時並行で、4年に一度の大舞台をめざす。
この人は、全てをやりきろうとしている。
追伸。
予餞会にはOBも集う。幼い頃の齋藤をスクールで指導したあるOBが、日曜出勤の合間を縫って駆けつけ、すぐ中座した。
「直人がキャプテンになるっていうから」と時間を惜しんで。
自ら頑張ることで、いつのまにか「コイツのためなら」と周りを巻き込めるのが齋藤という人。
キャプテン翼を連想してしまう。
【筆者プロフィール】
中川文如(なかがわ ふみゆき)
朝日新聞記者。1975年生まれ。スクール☆ウォーズや雪の早明戦に憧れて高校でラグビー部に入ったが、あまりに下手すぎて大学では同好会へ。この7年間でBKすべてのポジションを経験した。朝日新聞入社後は2007年ワールドカップの現地取材などを経て、2018年、ほぼ10年ぶりにラグビー担当に復帰。ツイッター(@nakagawafumi)、ウェブサイト(https://www.asahi.com/sports/rugby/worldcup/)で発信中。好きな選手は元アイルランド代表のCTBブライアン・オドリスコル。間合いで相手を外すプレーがたまらなかった。