高鳴る気持ちが伝わってくる時間だった。
2月16日にシンガポールで2019年シーズンの開幕を迎えるサンウルブズ。そのシャークス戦に先発するトンプソン ルークが試合前日に胸の内を話した。
37歳と306日でピッチに立ったなら、史上最年長のスーパーラグビーデビューとなるリアルロックは言った。
「どこのチーム、あの選手と試合できるとかでなく、明日、シンガポールでスーパーラグビーのピッチに立てる、サンウルブズの仲間と戦える。それがいちばんの楽しみです」
「この感じ、久しぶり」と言った。いい緊張感の中に身を置いているのが伝わってきた。
日本代表キャップ64を持つ。
2015年のワールドカップを戦い終えたとき、代表からの引退を表明したけれど、’17年の6月に首脳陣からの要請を受けてアイルランド戦に復帰。そのときは「僕はもうおじいちゃんだから最後」と言っていた。
そろそろ現役生活を終え、母国ニュージーランドで牧場経営の仕事に専念するつもりでもいた。
心変わりは、妻が背中を押してくれたことがきっかけだった。
昨年6月のイタリア戦をテレビの前で食い入るように見ていたら、最愛の人が「やりたいの?」と言う。
「僕はめっちゃラグビーが好きね、と」
スイッチが入ったのは、その時だったか。
今季からサンウルブズのヘッドコーチに就いたトニー・ブラウンとは、以前から連絡を取り合う仲だ。1か月ほど前、ジャパン組が遅れて合流したり、人数が少ないなど、サンウルブズの現状についてやりとりすることがあった。
「連絡をどちらから取ったかはハッキリしないけど、やってくれないか、と」
牧場の仕事をしていたけれど、心に火がついた。
合流。コミュニケーションをとり、溶け込む。先のレベルズとの実戦練習などを通してチームのスタイルを理解し、先発の座をつかんだ。
報道陣に年齢のことを聞かれたトンプソンは、「誰がおじいちゃん?」と笑って、続けた。
「僕はまだ若いよ。年齢はただの数字。心がいちばん大事」
チームへの貢献について問われると、「僕には他の選手より経験がある。それを使ってチームを落ち着かせたい」と口にした。
「僕は特別な選手じゃないけど、努力、ハードワークでチームを助ける」
現在のジャパンについて「すごくレベルが高くなっている。だから僕はメンバーに入れない」と言いながらも、心の奥底にある強い意志を示した。
「いまはサンウルブズのことしか考えない。そこでいいプレーをして、チームメートを助け、勝つ。その結果、もし、日本代表に選んでもらえたら、経験を使ってチームのために戦いたい」
自身の置かれている立場を「いまは遅れてきて手を挙げている状況」と冷静に見つめながら、静かに燃えたぎる。 明日、シンガポールの夜が熱くなる。