ふたつのポジションをやっていてよかった。堀越康介は言う。
2月4日からはラグビーワールドカップトレーニングスコッド(RWCTS)のキャンプへ参加。RWCTSの予備軍にあたるナショナル・デベロップメント・スコッド(NDS)から繰り上げられる形で、東京・町田キヤノンスポーツパークで汗を流している。
キャンプ集合前の2日には、岐阜メモリアルセンター長良川競技場での「日仏ラグビーチャリティマッチ」へ参加。多くのNDS組を揃えるトップリーグ選抜の一員として、後半10分から途中出場した。
「身体は動けました。今日の試合に出た(トップリーグ選抜の)メンバーは日本代表に入れるかどうかの瀬戸際の選手たちばかりだったと思うのですが、そのなかで思い切りアピールしたかった」
言葉通りに持ち味を発揮した。チームはフランス・トップ14のASMクレルモン・オーヴェルニュに29-50と敗れたものの、身長175センチ、体重100キロの23歳は何度も相手防御を切り裂いた。
圧力でも身体を横に向けないのが真骨頂。チームの使う攻撃オプションがその都度異なるなかでも、堀越は素早い位置取りと周囲との連係の妙で防御のひずみを発見。容赦なく突く。
「ディフェンスのギャップ(穴)を見つけて思い切り走り込むことだけは、意識していました。身体が小さい分、思い切りいかないと(後方に)返されてしまうので」
突進力に加えタックルも光る堀越はいま、1番と2番を行き来している。
帝京大の主将として大学選手権9連覇を達成し、昨春、国内トップリーグのサントリーに加入。間もなく、学生時代までのHOから左PRへ働き場を移した。しかし、新天地での活躍が認められて加わった昨秋の日本代表ツアーでは、再びHOを任された。
両者はいずれもスクラム最前列に入る要職だが、似て非なる側面を持つ。2番と呼ばれるHOは、中央で両PRのコントロールを任される。かたや1番をつける左PRは、左肩を相手にぶつけない状態で対面の右PR(3番)と押し合う。
2番から1番への転向を命じたサントリーの沢木敬介監督は、2014年に20歳以下日本代表のヘッドコーチ(HC)としても指導した堀越を「ラグビーセンスは抜群。1番でのスクラムが強い。将来、1番で日本代表になりますよ」と評価する。
一方、昨秋に2017年春以来の復帰をさせた日本代表のジェイミー・ジョセフHCは「現状では1番でプレーすることで彼の優位性が活かせていない」と話す。
ふたりのボスが異なる見解を示すなか、当の本人は「2番だけをやっていた時より、1番を経て2番に入った時のほうがパワーを発揮できている」と話す。かねてから「楽しむ」をモットーとするこの人は、出された辞令をただ前向きに受け止めるのだ。
「スクラムで3番の方向へ一緒に押すという意味では、1番と2番には似たところもある。(片手で相手をつかんで押す)1番をやったことで、(両腕を味方に回す)2番で押す時も力が出せています」
ツアー中は、かつて日本代表の左PRだった長谷川慎スクラムコーチから助言を受けた。トップリーグの試合での堀越のスクラムを映像で確認しながら、首を地面と平行に伸ばして組む意識などを伝えられたようだ。
「(練習で)2番やりながら、(今後のために)1番の組み方についていろいろと教えてくれました。スクラムのナレッジ(知識)、経験が増えた。だから組んでいて楽しい。(実戦で)うまくいかなくてもその理由が明確にわかる時も増えた。大きな収穫です」
今度のRWCTSキャンプでは、日本代表の方針もあって2番でプレー。1番と2番。本番でどちらの役割を任されても、持ち前の「センス」を発揮するか。