ラグビーリパブリック

【コラム】カルチャーってなんだ? サントリーを貫く精神。

2019.01.26

若手でカップファイナルに臨んだサントリー。写真は1年目の梶村祐介。サポートするのは同期入社の加藤広人。(撮影/松本かおり)

 ラグビークラブのカルチャーってなんだろう。
 シーズンの締めくくり、トップリーグカップの決勝を見終え、そんなことを考えた。
 日本代表抜きの大会で、トヨタ自動車がサントリーに勝った一戦。興味深かったのは、敗れたサントリーだった。23人のメンバー全員が日本人。外国籍選手を惜しげもなく起用してきたトヨタとは対照的で、戦い方も対照的だった。

 個のパワーやスピードでは押しきれない。すなわち、工夫するしかない。意識は、常にピッチの横幅いっぱい。くさび、飛ばしパス、おとり、背後からのライン参加。あの手この手で攻略を試みるのが伝わってくる。
 結果、7トライを喫しても5トライを奪った。34-43。スコアは大味でも中身は濃かった。

「うちのひよっこ軍団がライオンになりかけました。けど、まだだったな」
 試合後、沢木敬介監督の第一声だ。負けてどこかうれしそうだったのは手応えの証し。
「カップ戦は若手が成長する場。この試合をきっかけに、伸びる選手がたくさんいる」
 日本人のみの編成で臨んだ理由も明快だった。
「このダイバーシティーの世の中で、日本人だけでっていうこだわりはない。チーム全体が成長するためには、レギュラーだけが成長してもダメ。チームのカルチャーを成長させるため、押し上げるべき選手を選んだら、たまたま、みんな、日本人だった」

 カルチャー。サントリーというクラブには、哲学だったりカルチャーだったりという言葉がよく似合う。
 6年前を思い起こす。エディー・ジョーンズの後を受けた大久保直弥監督は、当時若手だった西川征克をNO8に、村田大志をWTBに抜擢し、ボールを動かし続けてリーグの頂点に立った。
「監督が代わるたびにスタイルが変わるのはよくない。(コーチとして仕えた)エディーと築いた攻撃的なラグビーを若手に引き継ぎたい。サッカーのバルセロナのように、攻め続けるスタイルをカルチャーとして根づかせたい」
 そう、大久保監督は言った。

 志をプレーに落とし込む手法は違えど、沢木監督の根っこにあるものも同じなのだろう。だから、カルチャーだ。取材ノートを読み返すと、象徴的なメモがあった。昨年10月の日野戦、期待のSO田村熙に触れて。
「うまくやろうとしてポジショニングが深くなってはダメ。今日みたいにフラットな位置でプレーする意識が出れば、いつもアタックのマインドで仕掛けるイメージを持てれば、もっとよくなる」
 地球のどこにいても、どんな情報ともつながれる時代。最新の戦術やトレーニングはあっというまに国境を超えて流通、一般化する。ある意味で個性を発揮しにくい、十人十色とはなりにくい時代。だからこそ、独自のカルチャーへと突き進む姿勢は尊い。

 さて、トヨタ戦。ルーキーでフル出場したCTB梶村祐介に聞いてみた。この1年、サントリーのカルチャーをどう感じたのか。
「勝ちに貪欲。結果を求める。僕自身、3連覇できなかったことに責任を感じている」
 攻め続け、かつ、勝ち続ける。なるほど。沢木監督が言うところのカルチャーが成長、幹は太くなっている。
 リーグもカップも、あと一歩。準優勝という悔しい成績が、どこか示唆的だ。何年か経った後。クラブがさらなる飛躍へ踏み出す土台の1年だった、と振り返ることになるシーズンかもしれない。


(文/中川文如)

【筆者プロフィール】
中川文如(なかがわ ふみゆき)
朝日新聞記者。1975年生まれ。スクール☆ウォーズや雪の早明戦に憧れて高校でラグビー部に入ったが、あまりに下手すぎて大学では同好会へ。この7年間でBKすべてのポジションを経験した。朝日新聞入社後は2007年ワールドカップの現地取材などを経て、2018年、ほぼ10年ぶりにラグビー担当に復帰。ツイッター(@nakagawafumi)、ウェブサイト(https://www.asahi.com/sports/rugby/worldcup/)で発信中。好きな選手は元アイルランド代表のCTBブライアン・オドリスコル。間合いで相手を外すプレーがたまらなかった。

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