ラグビーリパブリック

【コラム】メイジっぽい。

2019.01.18

トライを決めたWTB高橋汰地(左)に駆け寄る明大SH福田健太主将(右から2人目)。(撮影/髙塩隆)

 メイジっぽい、メイジらしい。
 決勝のキーワードだと思っていた。
 ワールドカップイヤーを祝うように盛り上がった全国大学選手権のことだ。前王者の帝京大を粉砕した天理大に、下馬評が傾くのは当たり前。向かい風を覆し、明大が22季ぶりの頂点に立つための鍵。
 メイジっぽさ、メイジらしさとどう折り合いをつけるか。

 話は昨年11月18日にさかのぼる。対抗戦で8季ぶりに帝京大を破った後の記者会見。「明大といえば集中力が切れる時間帯があるものなんだけど、今日はなかったですね」。そんなベテランライターの問いかけに、田中澄憲監督は苦笑しつつ答えた。
 「メイジらしくなかったですね」

 年が明けて1月2日。準決勝で早大に雪辱した後の記者会見。今度は主将のSH福田健太だった。トライを取った後、決まって緩んでしまう空気に自ら言い及んだ。
「メイジっぽいといえばメイジっぽい。ただ、ああいうところを突き詰めないと決勝は厳しい。悪い意味でのメイジっぽさが、決勝では出ないように」

 かつての黄金期を築いた明大の強みは、ご存じの通り、奔放さであり豪快さ。反面、緻密さとは縁遠かった。良くも悪くも人間味に富むというか。突然、何かが抜ける瞬間がやって来る。相手が講じる対策に無頓着、術中に落ちる。早大をはじめとするライバル校の勝機は、いつもそこにあった。

 再起を託された田中監督が変えたのも、そこ。勝負の神は細部に宿る、をピッチ内外で地でいった。前世紀とは逆に、相手を分析し尽くして試合に臨む姿勢は徹底された。
 それでもメイジらしさはつきまとう。ふとした拍子に、メイジっぽさが顔を出す。

 果たして、決勝もそうだった。
 キックオフ。ラックから出した福田のパスはよもや、避けようとした味方FWの太ももに命中。
 高校の試合でもなかなかお目にかかれないミスから、ゴール前のラインアウトを招く。ハードワーカーで鳴らすFL井上遼も福田も、なぜかタックルが軽い。先制トライを献上してしまう。

 ああ、メイジっぽい。古き時代を知るラグビー好きの多くがそう感じたはずだ。

 でも踏みとどまれたのは、新しい時代に踏み出そうとする明大だったからこそでもある。
 外から内への方向転換にもろい相手防御を事前に丸裸にして、トライを連ねた。手堅いキッキングゲームは、彼我の差を冷静に受け入れたゆえ。蹴り合いは陣取り合戦とは別に、体力温存という側面も持つ。天理大の留学生3人衆に個の力で劣る明大がリードを奪えば、これほど貴重な時間稼ぎはない。

 そして、後半40分の終了を告げるホーン。ラストプレーを迎えた。
 相手ボールのスクラム。この試合、金看板のスクラムで明大は劣勢を強いられていた。
 なのに、強気だった。

明大は80分間、激しく、しつこくタックルし続けた。(撮影/松本かおり)

 FWリーダー井上の覚悟。「ターンオーバーしてやろうという気持ちだった。僕らの強みだったスクラムが、うまくいってはいなかった。でも、やっぱりスクラムは譲れない明大のプライド。技術とかじゃない、プライドです」

 ぐいっと一押し。伝統の、前へ。想定外の受け身に天理大は慌てた。仕方なく展開し、頼みのCTBシオサイア・フィフィタがノックオン。明大に、22季ぶりとなる歓喜のホイッスルが響いた。
 あの最終局面で、おそらくは低かった前への可能性にかけた。それもまたメイジっぽかった。

 清濁併せのむ懐の深さとでも言おうか。決して完全無欠の優等生ではない。自分の弱さを受け入れ、時に心意気にかける胆力。
 明治大学ラグビー部を人に例えるなら、いいヤツだ。
 刷新すべきは刷新、受け継ぐべきは受け継いだ。
 新しい時代の明大。やっぱりメイジっぽい、メイジらしい。


【筆者プロフィール】
中川文如(なかがわ ふみゆき)
朝日新聞記者。1975年生まれ。スクール☆ウォーズや雪の早明戦に憧れて高校でラグビー部に入ったが、あまりに下手すぎて大学では同好会へ。この7年間でBKすべてのポジションを経験した。朝日新聞入社後は2007年ワールドカップの現地取材などを経て、2018年、ほぼ10年ぶりにラグビー担当に復帰。ツイッター(@nakagawafumi)、ウェブサイト(https://www.asahi.com/sports/rugby/worldcup/)で発信中。好きな選手は元アイルランド代表のCTBブライアン・オドリスコル。間合いで相手を外すプレーがたまらなかった。