ラグビーリパブリック

本郷コーチはラグビー担当ディレクター。ジェイ・スポーツの折山典弘さん。

2019.01.11

愛称はオリティー。白飯が大好き。(撮影/多羅正崇)

 ラグビーファンにお馴染みのスポーツテレビ局『J SPORTS』。
 
 第98回全国高校ラグビー大会では、82年ぶりの花園出場となった早稲田実業(東京第1)の大谷寛HCが、同局のラグビー担当プロデューサーであることが話題になった。
 
 ただ東京のもうひとつの代表校、本郷(東京第2)のコーチ陣にもJSPORTSのラグビー担当がいた。
 
 2002年から17年間、母校・本郷のBKコーチを務める折山典弘ディレクターだ。
 
「週1回のバックスコーチです。週末に深夜の中継明けで練習へ行くこともあります。眠い目をこすりながら(笑)」

 深夜の海外ラグビー中継などを担当してから、夜明けを待って本郷のグラウンドへ――。
 折山さんは苦労を笑顔で語れる、無骨で飾らないラガーマンだ。

 自身も本郷でプレーし、高校3年時には第70回大会に出場した。高校卒業後は青山学院大ラグビー部で楕円球を追った。
 
 大学卒業後はテレビ制作会社を経て、2002年からJSPORTSへ。
 会社勤めをしながらもラグビーは現役選手として続け、ラグビーリーグ(13人制)の日本代表として豪州遠征にも行っているから、並のラグビー愛ではない。
 
 ラグビー担当は2003年から。コーチを務める本郷はその間に3度の花園(2003、2007、2010年度)を経験。

「選手には『花園でお前たちの試合を中継することが俺の目標』と言っています。今回で母校の中継ディレクターは3回目です」

 今大会で、折山さんは本郷の初戦、広島・尾道戦の中継ディレクターを務めた。
 テレビマンとしての仕事に専念するため、采配に関与することはないが、対戦相手の監督には事前に挨拶をする。

「対戦する監督さんには毎回、『ジェイスポーツで中継ディレクターを担当する折山です。実は本郷のコーチをしていますが、試合はあくまでも公平に中継いたします』と挨拶しています」

 言わなければ分からないことだが、生真面目に筋を通すあたりが折山さんらしい。

 今大会で8年ぶりの花園となった本郷は、尾道の圧倒的なディフェンスの前に持ち味を出せなかった。12-40で涙を呑んだ。

「本郷は中学時代に全国大会で上位入賞したメンバーが多く、ポテンシャルでは負けていなかったと思います。尾道さんの前に出るディフェンスへの対策も十分考えてきました」

「しかし、尾道さんのディフェンスを頭では分かっていても、花園で体感するプレッシャーは、頭で考えていたものとはまったく違っていたようです」

 尾道のディフェンススピードは今大会屈指だった。
 元NO8の尾道・FB高武俊輔キャプテンは、本郷戦のディフェンスを振り返って「一人ひとりが責任感をもって身体を張れるチーム。準備してきたものが全部出ました」。会心のディフェンスだった。

 折山さんの悔恨は、花園前に尾道レベルのディフェンスを体感させてあげられなかったこと。そして、花園の怖さを伝えきれなかったことだ。

 自身が高校3年時の第70回大会では、花園前に強豪・熊谷工業(埼玉)を下したため、一躍優勝候補に推された。しかし慢心が影響したのか、初戦で大津(山口)に9-13で負けた。
 そして大会前に勝った熊谷工業は、第70回大会の覇者になった。俺たちはもっと上へ行けたのではないか――。
 折山さんは花園に永遠に取り戻せない悔いを残している。
 
「花園では何が起こるか分かりません。そうした経験もしっかり伝えてあげられなかったことが悔やまれます。我々OBコーチのミスだと思っています」

 今後も母校でのコーチは続けていく。
 もちろんJ SPORTSのラグビー担当という強みも活かしていきたい。

「ジェイ・スポーツでは、日本代表からトップリーグ、海外のラグビーを担当しているので、参考になるプレーや戦略がいくらでもある環境にあります。これをもっと活かして、本郷メンバーの向上に役立てていきたいと思います」

 ラグビーと一心同体の折山さんは、きっとこの瞬間もラグビーのことを考えている。

(文/多羅正崇)