秩父宮の7分24秒。
全国大学選手権準決勝、早明戦。後半9分58秒から始まった早大の連続攻撃は実に40フェーズ近くまで及んだ。しのぎきった明大が一気に反転逆襲、トライを導く反則を勝ち取ってプレーが止まったのが17分22秒だった。40分間のほぼ7分の1にわたり、途切れなかった攻防。試合のターニングポイントになった我慢比べを、勝手にそう呼びたい。
この7分24秒を振り返るにふさわしいのは、早大のSH齋藤直人なのではないかと思った。
これでもかこれでもかとラックに駆け寄り、前進できない味方と前進を許さない相手に間近で接し、パスを散らしながら抱いたジレンマ。それがすなわち、1か月前の対抗戦からスコアがひっくり返った理由につながる気がした。
「攻めているようで、あまり攻めている感じがしなかった」
やっぱり。
察した明大の変化は、試合後に敵将の田中澄憲監督らが明かした対策と符合した。
「対抗戦の時より、2人で止めに来る意識が強かった。1人目が下に刺さり、2人目がボールに。徹底されて、球出しを遅らされて、テンポよくさばけなくて」
奪われないまでも、しつこくからまれる。だから、ボールをキープしているのに攻め手は思うに任せなかった。絶好機と好機の境目になる22メートルライン付近を右往左往。時にFWに近場を突かせ、時に遠くへとBKを走らせ、流れを操っているようでいて、追いつめられていたのは早大の方だった。
できることはなかったか。
「相手のからみに対してレフェリーとコミュニケーションを取ったり、うちのFWに相手をはがす(ボールから遠ざける)ように促したり、僕の声かけでもう少し局面を変えられたんじゃないか」
予期せぬアクシデントもあった。
「あの時間帯、うちは1人少なかったんですよね? 攻めている間、気づかなかったんです」
HO峨家直也が負傷のためピッチを退いていた。「それならドロップゴールを狙うとか、別の判断があってよかった。外れても、プレーが切れて15人に戻って、ドロップアウトからマイボールでやり直せるから」
見る方には手に汗を握る展開も、やる方にすれば本意ではなかった。
つまるところ、「40フェーズ近くも繰り返す攻撃は、決して効果的ではない」という結論にいき着く。テンポを早められないなりにも、もっと緩急をつけられていたならば。ラインの角度も変化に乏しかった。そもそも今季の早大は、運動量を下支えに順目、逆目と簡潔に回してトライを重ねてきたチーム。すれ違いざまの連係、狭いスペースで仕掛ける細やかな合わせ技とは縁遠かった。
「違うゲームマネジメントがあったのではないか。SHとして責任を感じる」
この場合のマネジメントという言葉には、攻め方の工夫という意味も含まれるだろう。
秩父宮の7分24秒が始まるきっかけは、齋藤がジャブのように放った2度のハイパントだった。
試合を立体的に組み立てられる、日本では貴重なSHだ。加えて以前も書いたけれど、その気になれば日本で最もアップビートなテンポでパスをさばけるはず。まだ生かしきれてないけれど、引き出しは多い。
例えるなら、ワールドカップのたびに日本代表の前に立ちはだかるスコットランド代表のグレイグ・レイドローのように、八面六臂の働きで空間と時間を支配してしまうSHになれる潜在能力を秘めている。
最高学年を迎える来季、そんな個としての引き出しの多さを、もっとチームに還元していきたい。
本人もわかっている。
「今季と同じプレーをするだけでは、来季も決勝にはたどり着けない。個人はもちろん、チームとして成長していきたい」
明大、天理大、そしていまだ雪辱ならぬ帝京大の背中を追うことになった2019年。早大とその9番の捲土重来を楽しみに待とう。
【筆者プロフィール】中川文如( なかがわ ふみゆき )朝日新聞記者。
1975年生まれ。スクール☆ウォーズや雪の早明戦に憧れて高校でラグビー部に入ったが、あまりに下手すぎて大学では同好会へ。この7年間でBKすべてのポジションを経験した。朝日新聞入社後は2007年ワールドカップの現地取材などを経て、2018年、ほぼ10年ぶりにラグビー担当に復帰。ツイッター(@nakagawafumi)、ウェブサイト(https://www.asahi.com/sports/rugby/worldcup/)で発信中。好きな選手は元アイルランド代表のCTBブライアン・オドリスコル。間合いで相手を外すプレーがたまらなかった。