そのとき流経大柏(千葉)のメンバーは、昨年敗れた京都成章に45-14で勝利したばかりだった。
1月1日、3回戦8試合を終えた東大阪市花園ラグビー場。夕闇迫る第1グラウンドに抽選結果のアナウンスが響いていた。
流経大柏の選手数人はロッカールーム周辺で、ベスト8の対戦カード発表を聞いていた。
「第4試合は、流経大柏高校対常翔学園高校」
選手たちは敏感に反応した。輪の中から声がした。
「リベンジだ」
聞けば今夏の菅平合宿で、常翔学園(大阪第3)に完敗を喫したのだという。
「常翔さんは夏合宿で完敗した相手。4本差くらいだったと思います」(流経大柏・相亮太監督)
LO八木澤龍翔も鮮明に覚えていた。
「夏合宿でした。午前中に(京都)成章さんとやって勝って、午後に常翔さん。自分たちのミスが多くて負けました。勝てば借りを返せるので、FW勝負で勝ちたいです」
決勝トライだけを切り取れば、LO八木澤の願い通りになった。
1月3日の全国高校ラグビー大会準々決勝で、常翔学園は後半15分過ぎまで14点リード。
しかし「試合前から『後半15分まで我慢比べ』と言われていたので、雰囲気は悪くなかったです」(LO八木澤)。プランを信じる選手たちに大きな動揺はなかったという。
そこからの約15分間で3トライを挙げ、流経大柏は見事な逆転劇を演じる。
決勝トライは後半26分のラインアウトモールから。直前のペナルティ獲得で、相監督はいったんPGを指示した。
スコアは12-14。ショット(PG)が成功すれば、3点追加で15-14と逆転できる。
ここでPR葛西拓斗主将は決断する。
「監督からはショットとありましたが、モールを押せるので選びました。まずラインアウトに関して自信があって、モールは何回も何回も練習してきたので。迷いはなかったです」
相監督は自主性を尊重する指導者だ。
「相さんは最終的には任せてくれます。最後は自分たちで考えます」(CTB土居大吾)
日頃からプレイヤーズミーティングを重ねるなど、主体性も磨いてきた。PG指示に従わずモールを選択して結果を出したことは、相監督の方針に適うものだった。
「トレーニングもゲームも大枠のデザインはしますが、どう色をつけるのかは彼らの判断に委ねています」(相監督)
そして19-14でノーサイド。ドラマに満ちた逆転勝利で創部史上初となるベスト4進出を決め、同時に昨年負けた京都成章に続いて、夏合宿の借りも返した。