曲がりくねった歩みながらも確実に10連覇に近づいていた。
しかし、その道は途切れた。
1月2日の秩父宮ラグビー場。帝京大は全国大学選手権準決勝で天理大に敗れる。
7-29の完敗だった。
黒い矢は鋭く、重かった。
そのアタック、タックルを受けて、過去9シーズンも頂点に立ってきた真紅の王者は顔を歪めた。
チームを率いたLO秋山大地主将は試合後、勝者を称えた後に言葉を続けた。
「1年間準備してきたことを100パーセント出そうとしたし、出し切ったけど残念な結果に終わりました。帝京大学全員で戦った結果です。誇りに思います。これをしっかり受け止めて、3年生以下には来年につなげてほしいと思います」
立派だった。
スクラムで押され、各局面で圧を受けた80分。スキッパーは、「(天理の)スクラムは右に左に動いてきた」と体感を話した。
勢いのある相手に気圧された。試合の序盤にSO北村将大を失った(脳震盪)アクシデントもあったが、「特別なことでなく、やってきたことをやろう」と声をかけ続けて必死に抗った。
しかし、0-12で迎えた後半立ち上がりにトライを返しても流れは取り戻せなかった。
「これまでなら前に出ることができたところで出られなかった」
反攻の糸口をつかめなかった。
「先輩たちからつないでもらったバトンを後輩たちに渡すのが僕の、4年生たちの責任でした」
キャプテンは、ラストイヤーに託された自分たちのミッションをそう理解していた。
それは毎年の最上級生も同じだろう。しかし、今季は連覇が10に届くという特別な状況もあった。
「プレッシャーはありました。でも、そのプレッシャーは自分たちにしかできないチャレンジだし、10連覇は僕たちしか目指せない場所と思うようにしました」
昨季まで大学選手権9連覇を果たし、常勝軍団として成熟を重ねてきた。
しかし、秋山主将が率いるチームは1年のスタートで敗れる。関東大学春季大会の初戦で明大に屈したのだ。
「(だから自分たちは覇権を)守るという意識はありませんでした。チャレンジャーとして思い切ってやっていこう、と」
夏合宿では3試合戦い(Aチーム)、天理大にこそ辛勝したが、明大、早大に敗れた。
関東大学対抗戦でも慶大に迫られ、明大に敗れる。
いつもの年と違う足どりで最終章の舞台に立っていた。
秋山主将は夏を思い出し、「あの頃がいちばん苦しかった」と言った。
「(3試合中2試合に敗れ)うまくいきませんでした。修正もなかなかできず、キャプテンとしての自分の力不足も分かりました。悩んだ時期でした」
ただ、負けても下を向かないように仲間に呼びかけた。
「負けたことに対して反省はしますが、悲観するというか、落ち込み過ぎて次を向けないというようなことはなくそうと話しました」
お互い正直な気持ちで話し合うことでチームの結束を高めようともしてきた。
そんな道程を経て、空気は引き締まってきていた。
大学選手権に入ってからの雰囲気を、「全員のモチベーションが上がって、ここ、ここと、やるべきことのターゲットを絞れていました」と話した。
「その練習中の空気が楽しかった」
それでも勝てなかったのは、天理の100パーセントと自分たちの100パーセントを比べて「相手が上だった」と潔かった。
「天理はすべてのプレーにおいてレベルが高かった。明治には今季一度も勝っていません。だから勝って優勝したい気持ちがありました。でも、きょうは目の前の相手にすべてを懸けて挑みました」
決して力を出し切れなかったとは言わなかった。
きれい事ですが。そう前置きして、あらためて話した。
「結果は残念です。でも、負けたことから学ぶことはあります。それを4年生は次の人生で活かし、3年生以下はこの悔しさを来季にぶつけてほしい」
重責を担ったこの1年、本当に多くのことを学んだ。
「性格上、いままで生きてきた中で、あまり人に厳しいことを言えませんでした。それを優しさと勘違いしてきた。キャプテンとして、押さえるべきポイントは押さえて、たとえ相手が傷つくことであっても、結果的に相手のため、チームのために言うことが本当の優しさだと気づきました」
言いたいことを言えなかった青年が、少しずつものを言えるリーダーに成長した1年だった。
「いま思えば、考え、悩んだときは苦しかったけど、時間をかけて解決していくと、その悩んだ時期も充実した時間だったんだな、と思えます。そういうことも含め、充実していた。すごく幸せな1年間を過ごさせてもらった。結果を残せなかったのは悔しいし、他のメンバーを笑顔にできなかったのは申し訳なかったけど、ずっと支えてくれた仲間、一緒に戦ってくれた仲間を誇りに思います」
後輩たちがもう一度てっぺんに立ってくれると信じている。
「1年間かけて徐々にまとまるのがチームだと思いますが、最初から自分たちの目標を明確にして、見失わず、リアルに毎日を生きていければ、チームは早くから団結できる。選手権に入ってから僕らもよりリアルになって、いいまとまりになったけど、それでは遅い。そのことを経験したメンバーたちが中心になって、(これからの)チームをまとめていってほしい」
連覇は途切れても、帝京大が築いてきた栄光は色褪せない。
秋山大地と仲間たちは2018年度のシーズンに頂点に立てなかったけれど、この1年のプロセスが無駄だったわけでもない。
それが卒業していく者たちの生きるエナジーとなる。帝京大学ラグビー部がふたたび王座に就くための原点となる。