ボールを手にした瞬間、トライラインしか見えなかった。
紫紺の背番号12、射場大輔(いば・だいすけ)はそう話した。
そこまで22メートル以上もあったのに。ディフェンダーだって何人もいた。
1月2日におこなわれた全国大学選手権準決勝の明大×早大で、紫紺のジャージーが死闘を制した。
ファイナルスコアは31-27。明大が2年連続の決勝進出を決め、22シーズンぶりの頂点へまた一歩近づいた。
自陣からのビッグゲインあり。敵陣深くでのパワフルなプレーも。才能豊かなチーム力を披露した勝者。開始30秒で先制トライを許す展開も、縮こまることなく、ダイナミックなプレーを続けて勝利を手にした。
前半24分に10-10と追いつくも、36分にはPGでふたたびリードを奪われる展開だった。そんな緊迫した中で明大にとって貴重なトライとなったのが、その1分後に生まれたものだ。
前半を17-13とリードして終え、いい流れを引き寄せて後半に入ることができた。
その貴重なトライを決めたのがCTB射場大輔だ。
ラインアウト後のモールからSH福田健太主将が左タッチライン際にキックを上げる。それをチェイスしたWTB高橋汰地がキャッチした早大WTB長田智希に好タックルし、そこに続いたFW陣がターンオーバー、ボールを再獲得した。
そこから右に展開した明大。CTB 森勇登、SO忽那鐘太の手を渡ったパスを受けた射場がタテに出た。
トイメンの中野将伍のタックルを外し、ゴール直前で受けたいくつものタックルもふりほどきインゴールへ入った。
「迷わず走った」と回想する豪快な走りに、スタジアムは沸いた。
チームは関東大学対抗戦で27-31と敗れた(12月2日)早大に「リベンジ」のスローガンというモチベーションでこの日の準決勝に臨んだ。
ただ3年生の射場自身は対抗戦の慶大戦以降は22番のジャージーを着続け、1か月前の伝統の一戦ではリザーブ席からの出場。10分強しかプレーできなかった。
ジュニア選手権決勝(11月24日/42-26と東海大に勝利)にも出場している。大学選手権に入ってからの先発は4年生、渡邉弐貴のケガもあるが、与えられたチャンスでしっかり結果を残したからこそ手に入れたものだ。
大舞台での大仕事を支えていたものは、「絶対勝ちたい。絶対に負けたくない」の気持ちだ。
勝ちたい。負けたくない。
そのターゲットが早大であることは間違いないが、射場にとっては、トイメンに立つ早大の12番、中野も絶対に負けられない相手だった。
「(対抗戦の)早明戦では彼に走られています。だから、中野を止める、はきょうの自分に任された役目でした。同じ3年生。絶対に負けたくなかった。(後半に)少し走られたところもありましたが、責任は果たせたと思います」
この日は射場だけでなく、明大はチーム全体で好ディフェンスを見せた。
コミュニケーションをとりながらタックルしてもすぐに立ち上がり、すぐにポジショニング。その動きを規律を守りながらひたすら続けた。
「BIGが全員で共有している意識です。BACK IN GAMES。常に試合に戻る、という意識です。タックルして2秒以内に立ち上がる。ディフェンスラインにできるだけ多くの選手が立つ。そして、きょうはオフサイドをなくすため、いつもより50センチ下がって立ちました」
CTBとして、外への展開とFWを前に出すことなど、周囲をコントロールすることを自分のミッションとしてピッチに立った。
「タテにフィジカルに行く。外のチャンスを使う。個人的にも、その判断をしっかりやろうと思っていました」
舞台の大きさでやるべきプレーは左右されない。これまでやってきたように、自分らしくプレーすることに徹した。
あと1試合勝てば大学日本一。
頂点に手が届きそうなところまで山を登って言った。
「去年のチームを超えることを目標にしています。同じところまでは来ました。決勝で勝つことが、去年の明治から変わることだと思っています」
勝ちたい。
シンプルな言葉に、思いの強さが詰まっている。