ラグビーリパブリック

笑顔の理由。赤べこFWを動かした黒沢尻工SH伊藤海は156センチ。

2019.01.02

156センチ、63キロの体に闘志を秘める。(撮影/松本かおり)

 8トライを許したが、自分たちも4トライを奪った。
 やれることはやったから、フルタイムのホイッスルを聞いて笑顔になれた。
 足りないところもあった。それは後輩たちに託す。
 黒沢尻工の選手たちは敗れて清々しかった。

 1月1日におこなわれた花園(全国高校大会)の3回戦。黒沢尻工(岩手)は常翔学園(大阪第3)に28-50で敗れた。
 大会初戦、2回戦の聖光学院戦(静岡)は17-12の辛勝だったから、この日は「躊躇なく接点に入る」(伊藤卓監督)と修正して臨んだ。結果、自分たち本来のスタイルを出せた。
 勝利に手は届かなかったけれど、特にアタック面で通用するところがたくさんあった。

 スクラムハーフ(SH)の伊藤海(いとう・かい)は試合後、笑顔を見せた。156センチの3年生は、テンポのいい球さばきとパスでチームを動かした。
 FWを巧みに使い、自らトライも。
「自分たちの力は出し切ったと思います。悔いはないので」
 涙のない幕切れをそう説明した。

 自らインゴールに飛び込んだ後半26分のプレーを回想する。
「新チームになった当初は、タックルされたら無理をせず、しっかりボールをキープすることを徹底していました。でも夏過ぎから、倒されてもボールをつなぐ練習をしてきたんです。やってきたことを出せたトライ」
 全国で勝つためのアプローチが活きた。

 そのトライは爽快だった。
 仕掛けたSO土橋郁也がタックルを受ける。倒れながら浮かしたパスを受けて伊藤が前進した。
 伊藤は内側をサポートしたWTB阿部有にパス。阿部は大きくゲインするも、トライライン直前で捕まる。阿部が地面に倒れた後に浮かしたポップパスをふたたび伊藤が受け、インゴールに入った。

チームの長所を引き出した。(撮影/宮原和也)

 伊藤は小学校2年生の時に北上ラグビースクールに入った。中学時代は矢巾レッドファイヤーズでプレーを続け、黒沢尻工へ。HO鈴木虎鉄、FL後藤空冴、NO8根子叶多、SO土橋、CTB佐藤稜真主将は、ラグビースクール時代からともにプレーし、「お互いに何を考えているかわかる」という仲間たちだ。
 伊藤の身長は中学1年時から変わらない。「当時は土橋より大きかったのですが」と笑う。

 神戸製鋼のSH日和佐篤に憧れる。球さばきのテンポもさることながら、大きなFWにもひるまぬ、強いタックルを真似したい。
「小さいことを言い訳にしない。そこも尊敬します」
 伊藤自身、低さを武器にする。
 膝下へのタックルや、鋭く、常に動き続けるタフネスさは、チーム練習以外にもウエートトレーニングに取り組み、ショートダッシュも長い距離も繰り返してきた成果だ。

 花園へは高校3年間で3度出た。2年時から9番を背負って経験を積んだ。だから、自信を持ってFWを操る。
 その秘訣を「コミュニケーション」と言う。
「大学のセレクションなどで、他の学校の人たちと実戦的なアタック・ディフェンスをやるときもありました。自分から声を出し、相手の意思も聞かないとうまくいかない。そういう経験を通して学びました」

 赤べこフォワードと呼ばれる、自チームでもそうしてきた。
「フォワードには経験の浅い選手たちも多いので、練習からキツいことを、しつこく言ってきました」
 そうやって成長したFWの選手たちに感謝する。
 常翔学園戦でもモールを押し切った場面もあった。彼らの奮闘があったから、力をつけたBKが自由に動けた。

 卒業後は大東大に進学する。
「大学でもFWをどんどん動かすハーフになりたい。そして、高校時代よりもっと高いところまで勝ち進めたら嬉しいです」
 笑顔で高校ラグビーを終え、将来に思いを馳せる。
 いいお正月になった。

Exit mobile version