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帝京倒した天理大・島根一磨のルーツ。弟分・「テンコウ」は春王者とあす対戦。

2019.01.02
天理大・島根一磨主将は天理高出身(写真は1月1日の3回戦/撮影:牛島寿人)

天理大・島根一磨主将は天理高出身(写真は1月1日の3回戦/撮影:牛島寿人)

 1月2日、大学選手権10連覇を目指す帝京大を準決勝で破った天理大。主将の島根一磨選手は、今季初めにFLからHOにポジションを変えながら、見事にチームを牽引している。

 HOはスクラムの最前列中央で、8人のかじ取り役となる専門職だ。この日、後半5分と18分の二つのスクラムで見せた猛烈なプッシュは、勝負を左右する得点に直結した。

 実は昨季途中からHOの練習にも取り組んでいた島根主将。その専門スキルを1年あまりで大学トップレベルにまで高めたのはそれだけで類まれだが、島根主将の「転身」に納得ができる要素がもう一つ、彼のルーツにある。

 島根主将は天理高出身。

 高校時代も主将を務め、主にFLとしてプレーしたが、LOもNO8も務めるマルチプレーヤーだった。特に天理高-天理大ラインにおいては、珍しい例ではなく、島根主将の憧れの存在であるOB、立川直道選手(クボタスピアーズ)も高校時代はFL、大学でHOに転向している(立川選手はやまのべラグビー教室-天理中-天理高-天理大と、すべて島根主将と同じ所属)。ポジションが変わってもピッチにいてほしい選手たち。

 そして天理高では今、さらにポリバレントな選手達が活躍している。

 1月1日の花園3回戦(全国高校ラグビー)。中部大春日丘を21-10で破った試合は、天理苦戦と言える一戦だ。ただ試合メンバー表をあとで見て驚いた人は少なくないはず。

 高校日本代表候補としても知られるLOの山村勝悟が、背番号13を着けていた。BKの攻守のキーマンとなるアウトサイドCTBを、FWの選手が務め上げ、勝った試合だった。ちなみに、初戦2回戦でHOだった平見尚はこの日、LOで出場していた。

 天理高の松隈孝照(たかてる)監督は「ウチは工夫、(人のやりくりを)せざるを得ないんです」、さらりと言う。背番号があまり関係ないチームなのかもしれない。

 ぱっと見から他のチームと違う。15人のうち10人ほどは背格好が同じ。先発メンバーで身長175センチを超える選手は3名。最高身長はFB本田飛翔の179センチ。通常HOが務めることが多いスローワーはLOの吉野直希が担う。最重量のPR中山律希はいま花園のアイドルだ。俊足とステップのキレとハンドリングでトライを量産、チャンスメーカーとして各校のマークを受ける。

 本来LOの山村は、1年時までCTBの選手だった。CTBだった選手(177センチ)をLOに移したそもそもの決断も大胆だ。天理ではポジションごとの序列だけではなく、その年のチームのラグビーを体現する選手がピッチに立っている。

 今回、この本番に及んでの位置替えは、チームの大きな試練が発端だ。12月12日にエースFB津野来真(つの・らいま/3年)が骨折、無念の欠場となったことへの対応だった。山村は津野がケガをした翌日、12月13日からCTBの練習を始めたという。「試合でCTBをするのは、1年生以来です」(山村)。
 
「マイナスを、プラスに変えるんです」とは松隈監督。

 アクシデントが起きた12日の夜中、松隈監督のスマートホンが鳴った。コーチから、『いかに津野の穴を埋めるか』を考えていた監督にもたらされたのが、CTB山村起用の提案だった。穴を埋めるという発想が吹っ飛んだ。このマイナスを、いままでなかったプラスに変える。

 試合運びの共通理解、アタックのテンポ、選手が起き上がるスピード、ディフェンスの鋭さ。そして試練を乗り越える力。どれもラグビーの中核になる能力だ。彼らが何を育て、高めてきたかは、テンコウ、テンダイの試合を観れば分かる。

 漆黒のテンダイは帝京を倒した。春の王者に挑む、純白のテンコウの勝負はあした。

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