チームの最長身は190センチ。高2にして高校日本代表にも選出されたNO8武内慎は堂々の偉丈夫だ。
その武内と身長差31センチ。このチームの主将、田中寛大(かんた)は159センチ、75キロの小兵だ。
1月1日に東大阪・花園ラグビー場で行われた全国高校大会3回戦。石見智翠館は桐蔭学園に挑み、17-43で敗れた。
対戦相手の桐蔭学園は、春の全国選抜大会優勝校。2日前の2回戦では、有力チームの大分舞鶴を67-7で破っている優勝候補筆頭だ。
石見智翠館は格上相手に激しいタックルを連発し、前半は17-7と健闘し、逆転も狙えるエネルギッシュな内容でハーフタイムを迎えた。点差が開いた後半も観る者を魅了した。
「試合前のテーマは『強気に!』。後半に向けては『もっともっと強気に!』と声を掛けました」石見智翠館の安藤哲治(てつじ)監督が、悔しさを笑みで包んで振り返った。「いいチームでした。それを勝たせられなかったのは私の責任だと思います」
勝負を左右したのは桐蔭学園が決めた二つのトライ。前半終盤から後半開始直後にかけて、ここぞとばかりに「王者」がもぎ取った。後半1分で24-7。その後8分にもフロントローがBKアタックに加わるトライを浴びて、31-7。ここで切れなかったのが、今年の智翠館だった。
後半、智翠館のブルーのジャージーはますますアグレッシブになった。後半9分以降、HO、SH、FLをメンバー入替、キーポジションだ。18分にはWTBを替え、19分に反撃のトライ。20分にCTB、FLを投入、23分に連続得点となるトライを挙げた。
一時31点まで開いた点差の一方で、チーム力と、選手個々の尽きない意欲を感じる時間帯だった。
「本当に3年生がよく頑張った」(安藤監督)
「個性の強い…アクの強い3年生たちでした。なかなかまとまらなくて、浮き沈みも激しく、一時期はこのまま空中分解するのでは、という時もあった。それを、真面目な ちっちゃいキャプテンが体を張ってまとめてくれました」
チームが本当に一つの方向に動き始めたのは、12月に入ってからだという。もともと個々のポテンシャルとそのバリエーションは大きく広く、チーム力は急激に伸びた。その成長の象徴が、リザーブメンバーのレベルアップでもあるという。
この日、田中主将とともに先発を務めたFLは、2年生・手島壮汰。桐蔭学園が警戒していたというラインアウトを考えれば、183センチの主力3年生・馬場康輔を立てるのが普通だが、この日は「対・桐蔭」の組み合わせを考え、より機動力に特化した手島を起用した。
この試合でリザーブメンバーが活躍したことも、この起用も、チームの成長があったからできたことだった。
「桐蔭を相手に、狙ったことができました。いいチームになってくれました。勝たせてやれませんでした」
ちっちゃいの、でっかいの。速いのや頭がいいのや。大会前の成長も、この日最後まで尽きなかったチームの勢いも、きっともとはみんなバラバラでデコボコだったからこその賜物だ。何より、こうなることを最後まであきらめなかったからだ。
第3グラウンドの暖かな日差しが、安藤監督の頬を照らす。悔しいのと嬉しいのが混じったまぶしい顔になった。
※武内慎選手の高校代表選出について、注釈を一部修正しました(1月2日)