ラグビーリパブリック

「故郷の海を守りたい」。與那嶺樹(名護/FL)の夢は海上保安官。

2018.12.30

豪快に前へ出る名護FL與那嶺樹。(撮影/早浪章弘)

 82年ぶりの大舞台への登場で大きく注目されている相手に序盤は堂々と渡り合った。
 12月28日、全国高校ラグビー大会(花園)の2日目。名護高校(沖縄)は最終的に3-55と完敗するも、準備してきたプレーを仕掛け、立ち上がりの時間帯は早稲田実業陣に攻め入った。
 CTB仲本裕平のPGで先制。FL與那嶺樹(よなみね・いつき)の前への推進力も、チームに勢いを与えていた。

 やってきたことの一部を出せた立ち上がり。しかし選手たちは、相手の圧力を受けてミスをしてしまう。やがて流れを失い、完敗の結果に涙を流した。
 パワフルな走りを見せた與那嶺のパフォーマンスも、チームの盛り返しにはつながらなかった。試合後の與那嶺はロッカールームに戻って頬を濡らし、充実していた3年間の最後を仲間と過ごした。

 持ち前の力強さで何度も前に出たにもかかわらず、「マークされていたように感じました。思うようにはさせてもらえませんでした」と與那嶺は試合を振り返った。
「こちらも相手を分析していました。しかし、(東京の)予選決勝とは違うことをしてきた。そこに対応できませんでした。120パーセントの力を出せば勝てると思っていましたが残念です。県のレベルと全国のレベルの差を感じました」
 唇を噛んだ。

 中学までバスケットボール部に所属していた。名護地区には、部活を引退した中学3年生たちを集めておこなうラグビー大会、宮城博杯争奪中学校大会というものがある。
 與那嶺もその大会に参加して楕円球と出会った。最初は1回きりのつもりだったが、周囲に勧められたこともあり、名護高校入学と同時にラグビー部に入った。
「バスケットをやっていたので、相手に真正面からぶつかるブレーは嫌なんです」
 だからズラしてスペースに入る。結果、前に出られる。相手がどう仕掛けてくるか戦況を読むなど、駆け引きも好きだ。

 秘めた実力を見れば、大学ラグビーなど次のステージでも通用しそうだ。しかし本人は、海上保安官を目指す。資格取得の準備をする学校に進学する予定だ。
「映画『海猿』の影響もありますが、海を守りたい。両親が古宇利島(今帰仁村)の出身で、小さい頃からおばあちゃんの家に遊びに行っていました。きれいな海をいろんな意味で守りたいんです。海上保安官になるには(海上保安学校に入学するための)年齢制限があるし、沖縄での採用を望んでいるので、その可能性を高くするためにも、はやくそちらにスタートを切りたいんです」
 父親からは「大学に行ってもいいぞ」と言われているが、いまは思いを貫くつもりだ。

 高校生活を振り返り、「同期16人でラグビー部に入り、その16人が揃って卒業できるのが嬉しい」と笑顔を見せた。
「キツいこともたくさんありましたが、それらを自分たちで解決してきました。いまでは、すべていい想い出です」
 海上保安官になる姿も、どこかで楕円球を追い続ける姿も見られたらいいな。

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