初めて挑む全国高校ラグビー大会の1回戦を前に、群馬・桐生第一高の霜村誠一監督はSOの齊藤誉哉に言った。
「蹴るか、攻めるかは全部、君に任せる」
元日本代表CTBで就任4年目の霜村監督は、かねてより選手の主体性を引き出すよう意識。現役時代にパナソニック(旧 三洋電機)で指導された飯島均元監督(現部長)、ロビー・ディーンズ監督にならい、問題が起きた時の解決策も選手に考えさせる。一定のヒントを与えるものの、最終回答は教え子の口から聞く。
攻め方を決める際も、かような考えを抱いていそう。左右に選手が散ってスペースを切り裂く戦術を用いるなか、「僕と(選手が)一緒に作ってきた部分もある。(普段から)選手同士がお互い確認し合っている」。だから今度の一戦に向けても、まずは「ボールキープを」というイメージを全選手に伝達。そのうえで、ストラテジーリーダーを務める齊藤へは個別に「任せる」と告げた。
高校日本代表候補でもある齊藤は、その意図をかみくだく。
「信頼関係があり、それ(期待)に応えなきゃいけない、プレーで示さなきゃいけないと思っています」
12月28日、強風にさらされた大阪・東大阪市花園ラグビー場の第2グラウンド。鳥取・米子工との一戦へ、明確なビジョンを持って臨んだ。
「前半は風下だったので、意図的にボールキープをして主導権を握ろうと。(風上の)後半は(キックを蹴り)敵陣で守ってから攻めよう」
キックオフ。1対1でたくさん前に出られたことも手伝って、キックパスあり、オフロードパスありの展開に終始。身長181センチ、体重86キロの齊藤も、球を持てば何度もラインブレイクした。110-0のスコアで全国初白星を挙げる。「もっと(ボールを)動かしたかった」としながらも、丁寧に談話を整える。
「(キックを蹴る前段階で)FWが前に出てくれたのでBKに展開。60分間、いいアタックができたと思います」
小学校の頃は伊勢崎ラグビースクール、中学時代はシルクスラグビースクールでプレーした齊藤。主要ポジションはずっとSOで、「映像を観る時も、どうしても10番に目が行っちゃいます」。好きなプレーヤーは、元ニュージーランド代表のトニー・ブラウンだという。
現日本代表アタックコーチのブラウンは日本の三洋電機でも活躍。一時は相手のタックルですい臓を破損しながらも、引退する2011年まで防御にキックゲームにとハードワークした。
「なぜ10番に彼が入るだけでこんなにうまくいくんだろう、って。ディフェンスでも身体を張れる。僕もあんな選手になりたいと、ずっと思っています」
ブラウンの存在感をこう見る齊藤は、「いろいろなことを吸収して、たくましい選手になりたい」。今季15年ぶりにトップリーグで優勝した名門の神戸製鋼についても、新加入していた元ニュージーランド代表SOのダン・カーターの名を挙げこう言及した。
「いろいろないい選手がいるのに勝てなかった神戸製鋼が、ダン・カーターといい監督(ウェイン・スミス総監督)を入れて一気に強くなった。そういう(カーターのような)選手はいるだけで雰囲気が違いますし、皆からの信頼も厚い。そういう選手になって、チームで勝っていきたいです」
桐生第一に進んだのは、当時就任1年目だった現指揮官からラブコールを受けたから。「まだ花園に行ったことのないチームですが、霜村先生のもとで学んで花園に行きたいと思いました」。くしくも霜村は、ブラウンのいた三洋電機で主将を務めたことがある。県内有数の実力者だった齊藤のことは、「めちゃくちゃ誘いましたよ。たぶん、うちに来るつもりはそんなになかったろうから」と思い返す。2人の「信頼関係」のベースには、お互いの敬意があった。
よく話し合う内容は、「相手の思ってもいないところにスペースがあるから、そこを見ていろんなプレー選択をしていこう」だ。トーナメント戦の多い日本の高校ラグビー界にあってはラックの連取、モールといった、フィジカルを用いる手堅いプレーを選択されがち。その傾向へ、霜村監督は「もしかしたらラグビー離れを招いてしまう」と警鐘を鳴らす。
「身体はほぼ当たるんだから、勝っていくためにも、怪我をしないためにもフィジカル強化は大事です。ディフェンスでは、フィジカルがないと無理です。ただアタックに関しては、世界を見るならいま(高校生)のうちからああいう感覚(スペースへボールを動かす)でやった方がいい。今年も神戸製鋼はすごくスペースの使い方がうまかったし、ボールの動かし方もおもしろいじゃないですか」
齊藤は、霜村監督のメッセージをフィールドで表現する。
「ボールを動かす方がやっている人にとっても、観ている人にとっても楽しい。高校ラグビーでそういうプレーをしちゃだめということはない。おもしろいラグビーをしていこうと話しています」
30日には第3グラウンドで2回戦に挑む。優勝経験のある大阪・常翔学園が相手だ。本来は堅守が売りの桐生第一にとって、大きな試練が待ち受ける。
来春から東京の強豪大へ入る齊藤は、「負けると思って試合に臨まない」。2015年のワールドカップ・イングランド大会では、日本代表が過去優勝2回の南アフリカ代表を破っている。その一戦に未来の代表候補として触れた青年は、今度の2回戦へも「環境的には、悪くないと思います」と意気込む。向こうが実力を発揮しづらく、こちらが実力を発揮しやすいとの見立てを示す。
「相手がどう思っているかはわかりませんが、向こうはシード校として挑む初戦で、キックオフ時間も早い(朝9時)。自分たちで前に出て主導権を握って、ミスを少なくしてやります。同じ高校生です。シード校相手だとネームバリューでメンタルがやられちゃうこともあると思うんですが、そんなことは関係ないと日本代表が証明してくれたので」
チームは「8強以上」を目指す。霜村監督があえて明確な目標を立てないなか、選手たちが指揮官の東京農大二高時代の最高成績を上回りたいと言い出したようだ。
齊藤は、その流れを汲みつつ異なる見解を示す。
「僕は、日本一を狙います」
霜村監督は、選手が自分の思う以上のアイデアを出すことへ喜びを感じる。