ラグビーリパブリック

止まった風。1.5秒の誓い

2018.12.28

朝高アタックに立ちはだかる日川SH宮下賢志主将(撮影:毛受亮介)

 最終スコアは、大阪朝高29-14日川。

 花園ラグビー場で12月28日に行われた全国高校大会1回戦。日川の雨宮敬将監督は、前半はリードされて折り返したゲームについて冷静に振り返った。相手はシード級の実力校。両PRは120㌔と115㌔、身体能力も高いFWパックに、各年代で代表を務めてきたCTB李承信を擁するBKで上位をうかがうチームだ。

「前半17-7(日川が7)はいい折り返し。ウチの入りは非常に良かった。7-7から一本取られたのは、自分たちのラインアウトのミスが直接の原因でしたし、ショックは大きくなかった」

 前半は日川が風下。逆転可能なスコアで折り返し、後半勝負のプランにも合致していた。

「ただ、後半に入って風が止まったのは意外でした。自然条件なので仕方ありませんが、少し残念」

 後半はPGとトライ、ゴールを追加し、12分(30分ハーフ)には17-14と3点差に迫ったが、陣地取りはうまく機能せず、相手の安定したセットプレーから繰り出される攻撃にその後2トライを失って突き放された。勝利に手が届きそうな感覚があったぶん悔しさが募る。

 全国上位を常に目標に掲げる名門・日川高校にとっては、大阪朝高は下馬評に関係なく倒すべき相手だった。大阪朝高のFWは、彼らが動けるタイプの選手たちだけに、実際のサイズ以上に日川にダメージを与えた。

 しかし、その大きく重い相手を向こうに回すことが、日川の日常。「小さな」自分たちが、それをどうやって克服するか。2人でタックルに入るなど、数で勝つことだ。

 SHの宮下賢志主将は「1.5秒」を目標に掲げていた。

 相手1人に対して自分たちは2人を割く。そのぶん、相手の倍以上、多く仕事をこなさなければ、ほかの局面で人数が足りなくなってしまう。タックルなどで地面に倒れたら、すぐさま立って、次のディフェンス、アタックの準備をする。そのために、寝てから 1.5秒 で準備完了の体勢に戻ることを、自分たちの目標にしていた。

 トップリーグでもふつう掲げるのは「2秒」あたり。現実的には難しそうなほどの宣言は、そこに懸ける覚悟を表している。

 そしてすぐ起きる、は、またすぐ当たる、走るための準備だ。「寝て起きる」動作を織り込んだランメニューなど、「1.5秒」の運動量をかなえるトレーニングはハードさを極める。

 宮下主将、試合を振り返ると涙があふれてしまった。それでも「日川のタックルはできました」と胸を張った。低くて刺さるようなタックルは自分たちのアイデンティティーだ。

「相手のCTBを特別な選手だとは思っていません。広瀬(龍二)とか自分たちのCTB陣も素晴らしい選手だし、広瀬が『対面は止めるから』と言っていたから心配はなかった。仲間を信じることに懸けてきた。きょうも最後まであきらめないでできました」

 ただそのあとは、悔やまれることがらが次々と口を突いた。

「後半、風が止まった。SOは2年生だから、僕がもっと試合運びを教えておかなければならなかった。仕込みが甘かった。想定が明確じゃなかった」

「ピックゴー(体のぶつけ合い)でFWが劣勢だったので、もっと広がって攻めるように自分がコントロールするべきでした。気づいたときには遅かった。その間にこちらが疲れてしまって、FWはディフェンスに立った時に相手についていけなくなる場面が出てきた。向こうも波に乗って…」

 SHは9番目のFWだ。密集戦に踏み込んでボールをさばき、時にはそこに加わることもある小柄な主将は、下級生のSOを支えようとゲームメークの役割も負っていた。格闘と判断と、リーダーシップ。頼もしい仲間に囲まれているからこそ一人ずつ背負う責任への思いは深くなる。あれほど話し合い、確認し、これでもかと練習しても、悔いなくグラウンドを去るのは難しい。

「正月、超えてほしいすね」

 チームを勢いづける先制トライを奪ったHOの米倉良祐が、フィールドの機敏さとは反対ののんびりした口調で後輩への思いをつぶやいた。169㌢、98㌔。中盤地域からタンクのような体躯を躍らせて走り切ったトライは、スペースを狙って走り込んだものだという。せめてその喜びをききたかったが、「やっぱり、悔しいす」とだけ返ってきた。

 走って、当たって、寝て起きて、また走る。土埃舞う校庭で繰り返した練習は花園にしっかり足あとを残した。

 どうしても勝ちたくて、いつしか仲間を勝たせたくなって、日川が花園を走り切った。

ノーサイド直後の日川。左から2人目がSH宮下主将(撮影:毛受亮介)

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